2019年9月26日 第39号

 10年ほど前に観たハリウッド映画Letters to Juliet(邦題「ジュリエットからの手紙」)で、初めてその存在を知った「ジュリエットの家」。もちろん、シェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」のヒロインであるジュリエットの家のことである。ここには世界中から、恋に悩む人たちが集まり、ジュリエット宛に恋の悩みを書き、家の壁に貼り付けておくという、とてもロマンチックな習慣が残っている。ジュリエット家があるベローナの街並みも、映画で何度も登場するのだが、この習わしに拍車をかけるようにロマンチックで、いつかイタリアに行くことがあれば、絶対にベローナに行くと決めていた。

 オレンジ色の屋根に、石畳の狭い小道。小洒落たお店が裏路地にたくさん潜む恋の街ベローナ。ジュリエット家も、観光客で賑わう中心街の、意外なところに隠れていた。ゲートから、玄関までの長い壁には、恋の悩みを綴った手書きのメモがぎっしり。ここに来る人たちは、どんな思いで手紙を残していくのだろう。心に秘めた願いが成就しますようにという願いなのだろうか。それとも、ただ単に、誰かに心の内を聞いてもらいたいだけなのだろうか。壁の少し奥には、ジュリエット像が、様々な思いを秘めてやってくる観光客たちを見守っている。

 そんな愛のパワースポットに感動している私の目の前に、若い男性がやってきた。そして、ジュリエット像を見たかと思えば、いきなり胸を揉みだした。この男、変態か。しかも、まだ朝の9時だ。「ママ〜! あの人! おっぱいさわってる〜」と、一緒にいた子供たちも笑っている。そしたら、彼の友達と思われる人たちも次々と、ジュリエットの胸を撫でながら、写真を撮りだした。これはもしや何かの意味があるのではと思って聞いてみると、どうやら、ジュリエットの右胸を触ると、幸運をもたらしてくれるらしい。もちろん迷信だが。「はずかしい!」と騒ぐ子供たち目の前で、「それだったら僕も触っとく!」と旦那も触りだした。

 ジュリエット家の中は博物館になっている。2階には、真っ赤なポストもあって、ジュリエットに手紙が送れるようになっている。本当に返事が来るとのことで、中をのぞくと、たくさん手紙が入っていた。コンピューターも設置されており、Eメールでも、ジュリエットに恋愛相談ができるようになっている。前述の映画では、ジュリエットの秘書がいて彼女たちが返事を書いていたのだが、それは映画の中だけの話ではなく、実際にジュリエットの秘書たちは存在するようだ。はるばるカナダから来たのだから、私もEメールで恋愛相談をしておいた。きっと忘れた頃に返事が来るのだろう。

 

幸運をもたらすジュリエットの右の胸(Photo: Mako Ogura)

 

ジュリエットの家 (Photo: Mako Ogura)

 

恋に悩める人たちが手紙を残すジュリエット家の壁(Photo: Mako Ogura)

 

博物館となっているジュリエットの家の2階にある赤いポスト。実際に返事が来るという。(Photo: Mako Ogura)

 

 


■小倉マコ プロフィール
カナダ在住ライター。新聞記者を始め、コミックエッセイ「姑は外国人」(角川書店)で原作も担当。フェイスブックで繋がれたら嬉しいです。エッセイ等のご意見もお気軽に
ブログ: https://www.facebook.com/ogura.mako1 

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。