2017年9月28日 第39号

 「えーっ、6人の子供!? 男の子が5人で、女の子が1人! 本当に1人の母親で?」… 「そうなんですよ」。その6人の子供の母・恵美子さんと夫、家族全員は自然環境の中で子供たちを教育するため青森市内から八甲田山中の村へ引っ越した。長男の「大真」、長女の「夏好」、そして「真平」、「真玄」、「揚堂」、「揚啓」。子供たちは山間の小さな学校に通ったが、中学を卒業すると弘前の高校へ通学するために山を下り、町で自炊生活を始めた。八甲田山の村では、学校を中心として村全体が家族のようだ。そうした村人たちの温かいぬくもりと、恵まれた大自然の中で子供たちは育てられた、と母親の恵美子さんは老婆に話した。

 大自然の中で弟たちの世話をしながら、村の子供たちと一緒にのびのび育った夏好さんがカナダへ来たのは2016年5月。そして下宿探しに老婆を訪ねてきたのは5月27日だった。

 老婆の家は交通事情を考えると彼女に不適な場所だった。しかし、彼女と老婆は読書など共通の話題があり、初対面で、30歳と77歳の淋しい老婆との友人関係が成立。老婆は楽しくてしょうがない。その後ショッピングモールに行ったり、フードコートでおいしいカレーやラーメンを食べ、本の話をする。我が家の「寿司パーティー」にも来てくれたし、メールの交換も続いた。そして、彼女はエッセイ「老婆のひとりごと」の読者になり、コメントまでくれた。楽しかったなぁ…。彼女のメールを読むのがたまらなくうれしかった。それは8月末まで続いた。

 昨年9月下旬、東京の大妻女子大教授JYH女史からメールを受信。「澄子さん、このところ電視台や新聞で報道されているバンクーバーで行不明の留学生『古川夏好』ちゃんはあの『寿司パーティー』でご一緒だった『なつみ』ちゃんでしょう? あんなに悪く言われるような人には思えません。調べて下さい」と書かれていた。

 老婆もずっと報道は見ていた。「まあ、なつみちゃんによく似た娘だ」そう思いながら。でも名前が「こがわ・なつよし(?)」で「ふるかわ・なつみ(?)」ではない。老婆はそう思い続けていた。しかし更に調べてみる『古川夏好』は、そのどちらでも読める名前ではないか! ちょうどそのころ彼女の遺体が発見された。老婆には悲しむこと以外に何ができただろう。そしてバンクーバー新報のエッセイ「老婆のひとりごと」に夏好さんのことを書いた。

 バンクーバーの心あるひとり、「櫻楓会(おうふうかい)」の久保さん、ボランティアの朋子さんがエッセイ「老婆のひとりごと」を夏好さんの母親・恵美子さんへ送った。そして、恵美子さんのお礼状がバンクーバー新報へ。やがて老婆にもそのコピーが届く。翌年、2017年1月には恵美子さんと妹、夏好さんの弟、夏好さん捜索に貢献した若い人たち数人がそろって老婆を訪ねてくれた。そして、ことしの9月1日恵美子さんは夏好さんの一周忌法要のために再び来加。そして、多くの恵美子さんを励ます、心温まる「優しい人たちの輪」が、ここバンクーバーにできていることを知る。

 ことしの9月1日、恵美子さんは来加直後に諸事報告とお礼を兼ねて、在バンクーバー日本国総領事を訪ねた。老婆は彼女に同行し、彼らの会話を傍で聞いて驚いた。総領事はなんと、昨年バンクーバー新報に掲載された「老婆のひとりごと・古川夏好さん」の記事まで記憶されていた。恵美子さんとの会話中に目を拭き、悲しみを分かち合う総領事の優しい姿は印象的だった。

 昨年、恵美子さんは行方不明の娘を何とか探そうと、見知らぬ土地バンクーバーにやってきた。最初に空港へ車を差し向けてくれたのは総領事館だった、と恵美子さんは語った。その当時、24時間休みなく情報送信した総領事館のスタッフ・石倉さんがいた。時差のある日本とカナダ、きっと寝る時間をさいて情報を送って下さっていたのだろう、と恵美子さんは感謝の念で胸がいっぱいになったそうだ。そして彼女は「在バンクーバー日本大学卒業生の会」の関係者へも助けを求め、小茂田さんご夫妻に出会う。宿の世話から滞在中の何から何まで小茂田ご夫妻の厚意に甘えられたそうだ。また夏好さんが入会していた「盛和会(『経営とは何ぞや』とビジネスをする人たちの勉強会)」の浜野さんとも出会う。浜野さんは一生懸命、夏好さんが行きそうな場所から場所へと恵美子さんを車で案内、共に捜しまわった。

 昨年秋、無人の雨降る遺体発見現場で四十九日の法要があった。誰に依頼されたわけでもなく、ただただ「佛心(ほとけごころ)」と「情け」で、A住職がたった一人で行った法要に出席して下さったのは、その浜野さんだという。また、「古川夏好行方不明」を最初に確認し、警察に届け出、その後街角でビラ配りを続けたのはユウスケさんとジェイ(Jay)さんだ。彼ら2人は最初警察から犯人と疑われ辛い思いをしていた。その彼らのビラ配りを夏好さんと同じ青森出身である朋子さんはボランティア協力した。今では恵美子さんの親友だ。ジェイさんの会社のスタッフは、ビラのコピー印刷のためにわざわざモントリオールから手伝いに来て、夜中にコピーし朝から配って歩いた。昨年9月末に遺体が発見され、容疑者が逮捕された。多分200台以上のモニターを使ってセキュリティーガードをやっているクリスさんは、犯人「ウィリアム」の顔を2008年から知っていたという。彼は犯人逮捕に協力できた夏好さんの友人の一人だろう。現在も重ねて行われる裁判に毎回行くのはユウスケさんだ。裁判所の後方席には静かに座る領事館のスタッフがいることにも気付く。 

 今回来加した恵美子さんは、この一周忌に娘夏好さんの足跡をたどってみたかった。日系文化センター・博物館で行われた「日系祭り」で夏好さんは記念写真撮影をしていた。恵美子さんが来加して日系祭りに参加するとの情報を得たリトンさんは、まず浴衣の着付けを申し出て、さらに夏好さんの写真を探して送ってくださった。吉武さんは着付けの手伝い、吉武さんのご主人は法要の日に遺体発見現場へもいらして献花してくださった。日系センターの理事・堀田さんは昨年、夏好さんの記念写真撮影場所に実際におられたそうで、駐車場などのお世話をしてくださった。また、仏教会での一周忌法要にはバンクーバー新報の社長さんが、形は違うが同じく娘を亡くした母として恵美子さんを労り、遅れてきたご家族を出迎える恵美子さんのため友子さんが空港へ同伴した。

 この事件の関係者が老婆の家に集まり、話を聞かせてくれたのは、ことしの9月4日だった。

 関係者の温かい思いに反し、当時、「アスカ」と「ウオーレン」というカップルが出現し、自称NPOで留学生を守っているはずの夫婦が、こともあろうか、あることないこと、悪意の報告を警察に報告。フェイスブックにも掲載し、ユウスケさんとジェイさんの捜索の邪魔をした事実を知った。邪魔するだけでなくボランティアの心を傷つけたという。それを話すユウスケさんは目に涙をためていた。その頃、その悪い情報を日本で受け取った恵美子さんは、夜も眠れない日が続いた。その時の話を始めるとまたユウスケさんの目から涙があふれ出た。どんな思いでユウスケさんはボランティアを始め、今も続けているのだろうか? それは愛と責任感以外の何物でもない。

 結局、ユウスケさんとジェイさん、そして総領事館のどなたかが、今も裁判に出頭してがんばり続け、恵美子さんの力になっている。ここには書ききれないが、数限りない優しいバンクーバーの人たちの理解と思いやりが引き続き存在しているという現実を、事件から1年経過した今、老婆は知った。

 「夏好は容疑者のウィリアムを更生させたかったのかもしれない。以前、スイスに駐在の長兄を訪ねた時、夏好がジュネーブの街中にいたホームレスの一人に缶ビールをあげて一緒に飲んでいたこともあった」…母親の恵美子さんは容疑者ウィリアムと夏好さんの接触点について、このように考えている。 

 夏好さんを知る誰もがこう語る。いい加減さが全くなく、非常にまじめで、一つ一つのもの事に誠実にぶつかり丁寧に解決していく、そして優しい。「そんな夏好がホームレスのウィリアムの不幸な生い立ちと現在の生活を知り、彼の更生を願っていたのが、逆に怒りを買うことになり、この事件に至ったのではないか」と恵美子さんがぽつりと語った。そして、お世話になったバンクーバーの皆さまに、どのようにお返しができるのだろうか、「ありがたい…」とつぶやいた。

許 澄子

 

 

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