2019年10月10日 第41号

 最近、引っ越しました。少しずつ蓄積した家族4人分の「思い出」と「ガラクタ」を整理するいい機会になりました。しかし、整理をしながらの引っ越しの準備には思ったより時間がかかり、後半には、いっそのこと一切合切捨てることができれば、どんなに楽だろうという気持ちにかられました。かなりの物を処分しましたが、思い出深い物はなかなか処分できません。引っ越しは終わったものの、開けられていないダンボール箱がまだまだあるのが現状です。

 さて、生活環境の変化が、認知症の発症や進行につながることはよく知られています。引越しはその最たるもので、高齢になり、介護施設への入居や、生活スペースを小さくするための住み替え、子供が住む家で同居を始めた途端に、認知症を発症するケースは少なくありません。長年住み慣れた家から引っ越すだけでなく、その家を売りに出す場合もあるでしょう。特に、年老いた親の代わりに、子供が溜まった不用品の処分をしてしまうと、何を手元に残し、何を処分するかの判断基準が、本人とは異なることが考えられ、本当に大切にしている物まで処分しかねません。思い入れの大きい物まで捨ててしまうような整理のしすぎは、思い出を振り返る機会が少なくなり、脳の機能が衰えることで、認知症のリスクを高める可能性があると考えられています。

 例えば、高齢になり、子供と同居を始めるにあたり、住空間が狭くなることを予想して、「思い出の品」をごっそり処分してしまうと、「思い出の品」から昔を思い出す頻度が少なくなり、記憶力の低下につながります。同居により、身の回りのことで手助けしてもらう機会が増え、頭や体を使う機会が減ることが、その状況に追い打ちをかけることになります。若い人の場合、環境の変化により新しいものを見聞きすると、脳が刺激されますが、高齢になると、新しく記憶にないものは、脳の刺激になりにくく、認知症のリスクが高くなります。また、新しい土地での生活は、近所に知り合いや友達もなく、孤独感や孤立感が増し、リスクは更に高まります。

 日常生活の中で、普段は思い出さない学生時代のことも、卒業アルバムを開くと思い出の光景が思い浮かび、一連の記憶が蘇ります。「思い出の品」は、記憶を呼び戻すだけではなく、時間をあけて振り返ることで、記憶が「上書き」され、脳の成長に役立ちます。また、過去を振り返った時、当時の自分が抱いたものとは異なる感情を抱くことや、新しい理解が生まれることがあります。これが、思い出をより印象付け、自分を客観視するトレーニングにもなります。昔よく聴いた音楽を耳にすることや、昔使っていた香水の香りを嗅ぐことなど、五感すべてが記憶につながります。

 しかし、長く生きるとそれだけ「思い出の品」も増え、思い入れのある物は手元に残したいものの、すべてを残しておくには限度があります。収納スペースが限られている場合、思い入れの強い物を厳選し、保管場所に困る物は写真に残し、その物自体は処分するのも、ひとつの保管方法です。仕方なくトランクルームなどに預ける場合は、行きやすい場所を選び、定期的に訪れるようにします。預けっ放しでは、思い返す頻度が減り、預けている物自体の存在を忘れてしまうかもしれません。写真も溜まりやすく、保管場所に困るものです。昔のアルバムや、撮りためたまま現像していないデジカメ写真は、見返す機会が少なく、記憶にもあまり残りません。思いきって整理し、家族や友人と見る機会を増やすと、忘れていた出来事を思い出すきっかけにもなります。

 「思い出の品」は、身近に置きいつでも手に取れるからこそ意味があります。

 溜めすぎず捨てすぎず。いつでも効果的に思い出を紐解くためのヒントでしょう。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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