2019年7月25日 第30号
カナダ西海岸の玄関口バンクーバー国際空港に行くと、カナダの先住民文化を披露する、豪華なトーテンポールや彫刻など、目を見張るようなアート作品が展示され、あたかも美術館にいるような気分になる。先住民について何も知らなかったと言う旅行客でさえ、初めて見る先住民アートに魅了され、写真を撮る姿が後を絶たない。そんな私も同様、カナダに来た当初、先住民についてほとんど知らなかったが、すっかりネィティブアートにハマってしまい、結婚指輪でさえハイダ族のアーティストにカスタムメードしてもらったほどである。このアートがきっかけで、大学生の頃は先住民問題も少々かじり、そこから「日本の先住民、アイヌ」につながった。
アイヌに関しては、日本にいるとき、中学校の授業で、過去にあった歴史的出来事としてちらっと紹介されただけで、現在に繋がっていることとしては学ばなかったし、普段の生活で話題になることもなかった。だから、アイヌの人たちが、今でも北海道で暮らし、独自の文化や言葉があると知った学生の頃、自分の目でアイヌ文化を確かめねば!と思ったほどだ。
そしてやっと2年前に念願の北海道へ!
アイヌの世界は深い。その中でも、圧倒する力強さと美しさを持つアイヌアートは、特筆すべきだろう。ボールドな幾何学模様で、様々な意味を含む文様は、ハイダやイヌイットアートとは、また違う(そして負けない!)斬新なスタイルでかっこいい。このレベルのアートが、世界に知られてないのが、まさに驚きである。(そして、現代に生きる私は、これを、ふと、タトゥーにして入れたら素敵だろうなって思ったり…)それどころか、アイヌ文化は消滅の危機にある。(特にアイヌ語に関しては、ユネスコが極めて深刻な危機の状態であると発表しており、アイヌ語を流暢に話せるのは国内に10人くらいしかいないと言われている)。なんてもったいないことだろう!この素晴らしい文化を風化させないためにも、まずは、「今でもアイヌが存在すること」を一人でも多くの人に知ってもらわなければ!
それには、インパクトあるキッカケ作りが鍵を握っているだろう。幸運なことに、2020年には、東京オリンピック・パラリンピックが行われる。すでに、開会式にアイヌ民族の文化を披露しようという動きがあるようだが、これこそ彼らの存在を知ってもらう大きなチャンスになる。また長期的なキッカケ作りとして、バンクーバー国際空港のように、北海道はもちろん、東京や大阪など、玄関口となる空港に、勇壮なアイヌ文化を象徴する彫刻やアートを設置し、日本を行き来する人たちを出迎えることができたら、多くの人たちの興味を引くことは間違いないだろう。
アイヌ文化を守っていくために、まずはその存在を知ってもらうこと。そして、そこから「かっこいい」や「面白そう」と思えるアイヌの魅力を見つけてもらえれば、それが、みんなの「もっと知りたい」に繋がる。これこそ文化継承の一端を握るように私は思う。
■小倉マコ プロフィール
カナダ在住ライター。新聞記者を始め、コミックエッセイ「姑は外国人」(角川書店)で原作も担当。フェイスブックで繋がれたら嬉しいです。エッセイ等のご意見もお気軽に
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