2020年4月30日 第14号

 大変残念なお知らせですが、バンクーバー新報発行の終了に伴い、このコラムも最終回となりました。これまで皆様から頂いた励ましに感謝の思いを込めて書いた一本をどうぞ。

 3月16日にメキシコからカナダに帰国した後、政府の要請に基づいて2週間の自己隔離をすることになったのは前回お伝えしました。しかし、WHOのパンデミック宣言以降、薬の買い溜めをするためにリフィル等のオーダーが殺到し、これに対応するために連日残業を余儀なくされていた多くの薬局薬剤師は疲弊し、労働力の低下が懸念されました。そこで、ブリティッシュ・コロンビア州では「2週間以内に外国から帰国した者でも、新型コロナウイルス感染症の症状がなく、マスクと手袋をしていれば、薬局で仕事をしてもよい」という方針となり、私は結局、メキシコから戻って6日目に、本社から支給されたN95マスク(マスクの中でも密閉力の強いもの)をして仕事に復帰しました。

 この頃、コロナウイルスは薬の流通にも多大に影響しており、卸売業者から納品される薬の量に制限がかけられていました。例えば、600錠の薬を入荷したいのに、購入できるのは200錠までといった具合です。この状況に対応するため、多くの薬局で、慢性疾患の治療薬は1カ月分、吸入薬なども1人1個までといった制限を始めました。それぞれの薬局が抱える患者さんに薬が行きわたるようにするため、つまり出来るだけ多くの患者さんの健康状態を保つには、これが最も妥当な手段と考えられたためです。

 しかし、ここにはコストの問題がついて回ります。薬局では、一つ一つのお薬を調剤するのに手数料(薬局により異なり4ドルから13ドルの幅あり)をいただくことでビジネスが成り立っていますが、1回に1カ月分の薬を購入するのと、同じ薬を1回に3カ月分の薬を購入するのとでは、手数料が3倍も違ってきます。これは社会的な問題となり4月3日のCBCニュースの記事になりました。

 ただ、これは薬局がコロナウイルスが蔓延した状態を商機として捉えているわけではなく、流通状態に合わせた措置をとっているためで、記事の中でインタビューに答えたカナダ薬剤師協会のBarry Power 氏は、薬局が手数料を割引しない旨をコメントしました。当初この報道には、少なからず薬局を非難する意図があったように感じられますが、逆に、より多くの人が1カ月分の制限に理解を示す流れができたように感じられます。しかも、生活必需品としての薬を扱う薬局は、一般市民の外出の自粛が求められる状況でありながら、比較的多くの人が集まりやすいために、スタッフは常に感染のリスクと背中合わせで仕事をしています。このことから、「仕事を続けてくれてありがとう」と声をかけてくださる患者さんも多くおり、非常に心が温まります。

 肝心のお薬ですが、新型コロナウイルス感染症の治療薬としていくつかの候補があげられ、臨床試験が始まっています。新薬をゼロから開発するよりも、既存の薬を使った方が安価で合理的ということで、マラリア治療薬のクロロキン、リウマチ性関節炎の治療に用いられるヒドロキシクロロキン、痛風発作や特定の炎症疾患に用いられるコルチシンといった薬について効果が確認されているところです。ところが、これらの薬にはすでにそれなりの需要があったうえで、薬局は在庫を管理しているにも関わらず、メディアで名前が出た瞬間から卸売業者から入荷が出来なくなりました。早速これらの薬の処方せんを書いてきた医師もいますが、「どうやら効くらしい」(が、本当のところはまだ分からない)という状態の薬を患者さんにお渡しするのは科学的ではなく、また本来の疾患治療に支障をきたす患者さんが出てくるので、私の薬局では初めからこのようなオーダーは調剤をお断りをしてきました。日本ではナファモスタット(商品名フサン)やファビピラビル(同アビガン)が臨床試験中とのことで、こちらの行方も気になります。

 さて、私がまだ1歳だった1978年にバンクーバー新報が発刊され、35歳になる年の2012年1月からコラムを書き始めました。インターネットの発達とともに情報過多が弊害ともなる社会において、薬局という一つの医療現場の生の声をお届けするため、通り一遍の薬学的知識から社会に連動した出来事、また渡航する人の健康を扱う渡航医学について数多く書かせていただきました。今も、昔も、そしてこれからも、薬があるところには薬剤師がいるという仕組みは変わりません。私は、これからもお薬と患者さんの橋渡しをするだけでなく、カナダの日系社会に貢献をできるよう精進して参りたいと思います。これまで本コラムをご愛読いただきました皆様に、心より感謝申し上げます。

追記:4月中旬以降は医薬品の流通状態が改善し、数量制限がなくなった薬局も多くあります。3カ月分のお薬を希望の場合は、その可否を薬局スタッフにお尋ねください。 

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

 

読者の皆様へ

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