2019年7月18日 第29号

 過去10年を振り返って、著しい効果と安全性を兼ね備えた薬として多くの患者さんに使われるようになった薬といえば「生物学的製剤」です。4月にこのタイトルの予告をしてから延期となっていましたが、今日は生物学的製剤のキーポイントを一気にまとめます。

 生物学的製剤とは、生物が合成するたんぱく質を応用して作られた治療薬のことを指します。遺伝子組み換え、細胞培養、クローニングといった、最先端のバイオテクノロジーを応用して製造されることから遺伝子組換え医薬品やバイオ医薬品とも呼ばれ、英語ではbiologicsと総称します。

 生物学的製材の化学構造は、複雑かつ巨大で、例えば生物学的製剤の中でも関節リウマチに用いられる抗体医薬品と呼ばれる薬の分子量(物質の重さのこと)は約15万にも上ります。化学的に合成する薬の分子量が300から500程度ですから、抗体医薬品はとてもサイズの大きな物質であることが分かります。

 現在では生物学的製剤の種類は非常に多く、それぞれの製品名や特徴を覚えるのは薬剤師にとっても容易ではありません。しかし、薬の一般名には物質の由来や薬理作用に応じた特定の語幹が含まれているので、一般名を見れば分類や作用が分かるようになっています。例えば、疾患に関連する分子の機能を阻害する働きをもつ薬であるインフリキシマブ(商品名Remicade)やアダリムマブ(商品名Humira)では、名前の最後にはいつも「マブ」がつくのが特徴的です。

 生物学的製剤の代表的な適応症(薬をつかう目的となる疾患)は、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、強直性脊椎炎、乾癬、ベーチェット病、クローン病、潰瘍性大腸炎等があります。また種類によっては、がん細胞などの特定の細胞だけを狙い撃ちすることで効果を示すような薬(分子標的薬)もあります。

 関節リウマチにおいては、生物学的製剤の登場により治療法が大きく変わり、より多くの患者さんがその恩恵を受けてきました。名称はやや難解になりますが、関節リウマチでは生体の細胞に存在するTNFα(アルファ)受容体に結合することで、その作用を阻害する薬、ILー6(インターロイキン6)受容体に結合して細胞の核内への信号をブロックする薬、そして炎症に関与するマクロファージのT細胞との結合部位に作用する薬があります。病気の原因となっている、過剰に作られたタンパク質を抗原として認識して結合することで、炎症を抑え、関節のこわばり、痛み、腫れが改善します。生物学的製剤は、炎症や骨破壊を起こす物質に直接作用するために高い効果が期待でき、従来の治療薬では効果が不十分な場合などに使われます。

 基本的には、薬ごとに決められた投与間隔(2週間隔や4週間隔など)で患者さんが自分で皮下注射をしますが、薬によっては病院での点滴が必要なものもあります。また、生物学的製剤は常に冷蔵庫で保存します。

 生物学的製剤は、標的となる分子への特異性が高く、代謝されてアミノ酸に分解されることなどから、低分子医薬品と比べて有害反応は出にくいとされていますが、それでも体内の免疫の働きを抑える薬なので、肺炎や結核などの感染症が起こることがあります。感染症時に炎症症状が弱く出ることがあるため、少しでも具合の優れないときは感染症を積極的に疑う必要があります。またアレルギー反応が起こることも稀にあります。

 生物学的製剤の一番の難点は費用です。例えば、Humiraという薬の場合、高い効果と引き換えに1ヶ月あたり約1800ドル、年間約2万ドルという莫大な金額がかかります。もっとも、BCフェアファーマケアにおいては、ひとたび免責金額に到達した場合の自己負担は30%で、その後、年間最大自己負担額に達した後は自己負担はゼロになりますが、現実的には全額公費負担になるまでのお金を捻出することが出来ない人は沢山います。このような経済的事情により生物学的製剤による治療が出来ないという事態を避けるために、カナダでは製薬会社によるサポートプログラムが存在します。例えばHumiaの場合、「Abbivie Care」が該当します。専門医が薬を開始する時点で、各プログラムのコーディネーターが介入し、経済的状況、BCファーマケアの免責金額、民間保険の有無など、患者さんや薬局と連絡をとり合いながら薬の支払いに関するサポートをしていきます。ごく最近になって、生物学的製剤の特許の切れた薬については、「バイオシミラー」という、元のブランドネームの薬と同一の成分を含む薬(低分子医薬品のジェネリック薬に相当)が登場してきました。BC州は政府の財政負担を減らすために、同一成分であればバイオシミラーの金額までを負担することを決定しています。

 高額であるものの非常に高い効果のある生物学的製剤は、今後さらに幅広く使用されていくことが予想されます。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

 

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