「ママ〜!ボクの学校、キス禁止になった!」と、2階のトイレで用を足していたはずの息子が、大切な事を思い出したかのように下にいる私に向かって叫んできた。えっ、今、キスって言った?禁止って言った?
親として最初に頭に浮かんだのは、やはり「まさか、うちの子が…」だった。でもここは思ったことをそのまま口に出してしまう前に、深呼吸。一度出てしまった言葉は、戻すことができない。過去に何度かそれで息子に怒られたことがあるだけに、最近ではちょっと慎重になっている。
息子は5歳。小学一年生になったばかり。ちゅーちゅーと、母親である私が息子の頬にキスしようとするならば、「ママやめて〜」と逃げ出してしまう。最近では恥ずかしいと言って学校付近では手さえつないでくれない。自分の誕生日会には男の子だけ招待したいらしい。そんな姿を見ているだけに、キスにはご縁がないようにも思われる。だからきっと高学年のお兄さん、お姉さんのことを言っているんだろう、と考え直した。
トイレから出てきた息子に早速、誰のことを言っているのか聞いてみた。学校からのお知らせを告げるかのように、それは同じクラスにいるAちゃんとB君だという。抱き合ってキスをしているらしい。「お互いのことが好き過ぎて、キスをしたくなるらしいよ」と加えてくれた。この解説が、あたかも新種のカブトムシについて学んできたことを話すかのようにあまりにも得意げだったので、なんだか微笑ましかった。結局のところ、学級担当の先生が介入し、学校でキスをすることについて話し合ったようだ。
5、6歳にしてすでにキスをしたくなるほど異性を好きになってしまうことが実際にあるのだろうか。私の小学生時代にはそんな経験がなかったので全くわからない。記憶に残っている事と言えば、好きだった男の子にイジワルされたことばかり。だから今回の話を聞いて、小学1年生にしてこんな禁止令が出てしまうのは、キスや抱擁が家庭内外で見られることが多いカナダと言う国柄のせいなのか、あるいは子供の成長過程のスピードに差があるのか、それとも『今時の子供』いわゆる情報社会を生き抜く子供たちとはこんなものなのか、などなど色々と考えてしまった一連の出来事となった。