2017年4月20日 第16号

 例年3月半ばを過ぎると、バンクーバー市内で豪華に咲き乱れる桜を横目に、沢山の人が花粉症の薬を求めて薬局に足を運ぶもの。ところが今年は雨の日が非常に多いため、花粉症の症状に悩まされている患者さんの数はそれほど多くありません。しかし、油断は禁物。少しでも晴れの日が続けば、どんどん花粉が降ってきます。

 花粉が体内に侵入すると、抗原抗体反応によりヒスタミンやロイコトリエンという化学物質が遊離し、それぞれの受容体を刺激することで、鼻のかゆみ、くしゃみや鼻水、鼻づまりといった症状が出ます。 花粉症は対症療法が基本となり、鼻水にはReactine® (成分名cetirizine)やAerius®(desloratadine)、Claritine® (loratadine)、Allegra®(fexofenadine)といった眠気の副作用の少ないタイプの抗ヒスタミン薬がよく用いられます。また鼻づまりの薬には内服のSudafed®(pseudoephedrine)がありますが、この薬は血圧および血糖値の上昇、不眠や神経過敏といった副作用により、その使用は限られています。しかし昨年、以前は処方せん薬であった2種類の点鼻薬(鼻スプレー)、Nasacort®(成分名mometasone)とFlonase®(fluticasone)が処方せんなしでも購入できるようになりました。これらはともにステロイドと呼ばれる薬で、鼻腔内の炎症を抑えて、鼻水や鼻づまりといった花粉症の鼻症状を改善します。現在ステロイドの点鼻薬は、アレルギー性鼻炎の治療で最もよく使われている薬です。

 「ステロイド」と聞いて筋肉増強剤や副作用を想像して敏感になる人もいるかもしれませんが、ご心配なく。これらの点鼻薬に筋肉増強作用はありませんし、全身への影響は少なく(吸収率は最大でも0.5%)、非常に安全性は高いといえます。一定年齢以上のお子様、妊婦・授乳婦の方でも安全に使用できます。

 ただ、どんなに有効性が高い薬であっても、スプレーをキチンと使用することができなければ、効果は期待できません。そこで、NasacortとFlonaseという点鼻薬の使い方は以下のようになります。

【準備】
 ①点鼻薬を使う前には、鼻をかんで、通りをよくします。
②キャップをはずし、軽く容器を振ります。
③容器の底を親指で、ノズルを人差し指と中指ではさむように持ちます。
④新たに開封した薬では、初回に限り、2〜3回または薬がノズルの先端から出てくるまで空中に向けてスプレーしてください。

【点鼻】
⑤軽く頭を下げ、少しうつむいた状態にします。
⑥片方の手で一方の鼻の穴をふさぎ、垂直に立てた容器の先端をもう一方の鼻の穴に入れてスプレーします。スプレーと同時に、スッと鼻から息を吸うと上手に薬が行き渡ります。また、容器の先端を鼻の中心部ではなく、少し外側に向けてスプレーしてください。
⑦もう一方の鼻にも同じようにスプレーします。通常、Nasacort®が1日1回各鼻腔に2噴霧ずつ、Flonase®では1日1回各鼻腔に1〜2噴霧ずつ行います。2噴霧行うときは、常に片側ずつ交互にスプレーしてください。
⑧薬を鼻に入れた後は、薬を鼻の奥まで行きわたらせるために、数秒間上を向いて、鼻からゆっくり呼吸をしましょう。

【アフターケア】
  使用後は容器の先端をきれいなガーゼなどで拭き取り、必ずキャップをし、室温にて保存してください。  スプレーの使用方法については、インターネット上にビデオもありますので、参考にしてください。 https://www.flonase.com/products/flonase-allergy-relief/
http://nasacort.ca/en

 いずれもOTC薬としては、ブランド名の商品のみ、小さいサイズのものであれば、20ドル前後で販売されています。ただ、民間保険をお持ちの方の場合、医師の診察を受け、処方せん薬として購入したほうが値段が安くなることもあります。

 点鼻薬というと、ここで紹介した薬の他にも、Dristan®(成分名oxymetazoline)やOtrivin®(xylometazoline)といった血管収縮剤を含む薬もありますが、効果や副作用の面からみてステロイド薬の方が優れています。しかし、重症の場合や、市販薬を適切に使用しているにも関わらず十分な効果が認められない場合には、一度医師の診察を受けてください。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

読者の皆様へ

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