2017年3月16日 第11号

 高齢化が進むことで老年医学(geriatrics)という分野に焦点が当てられています。小児を専門とする小児科医がいるように、高齢者に特化した知識が医師や薬剤師にも必要なのです。そこでクイズです。数ある疾患の中でも、その名前に「加齢」とつく目の病気ってご存知ですか?

 加齢により網膜の中心部である黄斑に障害が生じ、見ようとするところが見えにくくなる目の病気が、「加齢黄斑変性(Age Related Macular Degeneration ; AMD)」です。カナダのAMD患者の数は、140万人以上と推測されており、失明原因の第一位です。日本でも、人口の高齢化と生活の欧米化により、AMD患者の数は近年著しく増加しています。

 加齢黄斑変性には、大きく分けて萎縮型(ドライ型)と滲出型(ウェット型)の2つの種類があります。萎縮型(ドライ型)では、網膜色素上皮が徐々に萎縮し、網膜が障害されて視力が徐々に低下します。これに対して、滲出型(ウェット型)では、網膜色素上皮の細胞内に溜まった老廃物を吸収しようとして、脈絡膜から血管が伸び、これが破れて出血したり、血液中の成分が漏れ出たりします。すると網膜が正しく働かなくなり、視力が低下します。

 物がゆがんで見える、中心が暗く見える、ぼやけて見える、不鮮明になるといった症状が見られたらAMDを疑います。症状が片方の眼から現れることが多く、それに気づいても年齢のせいにして放置されることもあります。見たいところが見えない、読みたい文字が読めないといった症状に気付いたら、一度検査を受けてください。症状は進行していきます。

 AMDの原因は加齢だけではありません。遺伝、白色人種、高血圧、動脈硬化、脂質異常、肉中心の食事、肥満、喫煙、日光といった因子によっても引き起こされます。このうち食事や肥満、喫煙といった生活習慣に由来する部分は、自力で修正可能です。日頃から緑黄色野菜や魚を多く食べ、脂肪の摂取量を減らし、禁煙と運動を心がけましょう。また、日差しの強い季節には、しっかりと紫外線をカットするサングラスをかけるようにしてください。

 加齢黄斑変性の治療においては、サプリメントの効果を検討するために「AREDS(Age Related Eye Disease Study;AREDS)」(2001年発表)と「AREDS2」(2013年発表)という2つの大規模研究が行われました。その結果、現在では「AREDS2」に基づいて構成されたサプリメントが推奨され、これはAMDの進行を抑制する効果があります。

 ラベルに「AREDS2」と表記されているもの、すなわちビタミン C(Vitamin C; 500mg)、ビタミンE(Vitamin E; 400IU)、銅(copper oxide; 2mg)、亜鉛(zinc oxide; 80mg)、ルテイン(lutein; 10mg)、ゼアキサンチン(zeaxanthin; 2mg)が配合された製品(商品名:Vitalux® Advanced 、PreserVision AREDS 2 Formula)を選びます。どれか一つの成分を大量に摂取してもダメ、いずれかの成分が抜けていてもダメで、この特定の配合を長期間に渡り摂取することでのみ、効果が期待できます。

 錠剤を摂取するのが困難な場合には、噛んでから飲み込むことのできるチュワブル錠(Vitalux® Advanced Chewable)もあります。尚、AMD用のサプリメントにはAMD以外の眼疾患を予防する効果はありません。また、AREDSのオリジナルバージョンでは、ベータカロテンが含まれていましたが、肺癌のリスクが上昇することが分かり、AREDS2の構成成分からは除外されています。

 滲出型(ウェット型)のAMDには、近年新しい治療法が開発されています。これは、新生血管の成長を抑制する薬を硝子体内に注入する抗VEGF療法と呼ばれるもので、非常に高額ではありますが、視力の改善や維持に良好な成績を上げています。

 北米で生活する私達は、食生活の違いにより、日本で生活するよりもAMDのリスクは一般的に高いといえます。AMDや薬について不明な点や疑問がある場合は、是非薬局薬剤師にご相談ください。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

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