2016年12月15日 第51号

 ここだけの話、ウチでは少し前まで小さい子供と同じ部屋でいわゆる雑魚寝をしていました。欧米式に親と子供が別の部屋に寝て、泣く度に母親が子供部屋に行き、ロッキングチェアでおっぱいをあげるのは、妻にとって非常に面倒なシステムだったからです。しかし、これは何に重きを置くかによって見方が変わってきます。子供を幼いころから自分の部屋で寝るようにしておけば、出産以降も少なからず夫婦2人だけの時間を確保できます。カナダと日本で様々な文化の違いがありますが、夜の営みの頻度の違いは、おそらくその最たるもの。夫婦が末永く2人の幸せな時間を共有していく上で性生活は欠かせないものであるがゆえに、勃起障害(Erectile Dysfunction、以下ED)は非常に敏感な問題です。

 年をとればEDの割合は高くなりますが、壮年期以前にもEDは起こり(若年性ED)、ストレスやトラウマによる心因性ED、抗うつ薬などによる薬剤性EDといった異なるタイプがあります。EDにはいくつかの治療方法がありますが、代表的なものは内服薬です。Sildenafil(商品名Viagra)、tadalafil(Cialis)、vardenafil(Levitra、Staxyn)の3つがいずれも処方せん薬として販売されています。これらは薬理学的にホスホジエステラーゼ5阻害薬(phosphodiesterase 5 inhibitor; PDE5-inhibitors)と呼ばれ、体内でホスホジエステラーゼ5という酵素を阻害することにより、陰茎海綿体の平滑筋を弛緩させ、勃起を促進します。性的な刺激が加わった時に勃起をサポートする薬であり、性欲を亢進させる催淫剤としての効果はありません。上記3つの薬の違いは、値段、副作用、作用持続時間、 食事の影響等にあります。

 処方せん薬の値段は、民間保険会社のPacific Blue Crossが提供するPharmacy Compassというオンラインシステムにより検索・比較ができます(参考)。値段は錠剤の規格(強さ)や、ブランド薬かジェネリック薬であるかにより様々です。また、各薬局の調剤技術料(通常10ドル前後)が加算されることを考慮してください。雇用者が加入する民間保険をお持ちの方は、自己負担の有無や限度額が各プランにより大きく異なりますので、あらかじめご確認ください。

 3つの薬に共通した副作用として頭痛と胸やけがあり、さらにsildenafilとvardenafilでほてり、鼻づまり、sildenafilで色覚の変化、tadalafilでは鼻水、腰痛、筋肉痛といった副作用が起こることがあります。また痛みを伴う勃起が必要以上に続く場合はすぐに医師を受診しなければなりません。

 作用の持続時間としては、tadalafilが30~36時間と最長で、週末や旅行、パートナーの排卵日にまたがって性交を行う場合に適しています。一方、sildenafilとtadalafilでは最大でも4、5時間程度で、しかもこれらは性交の30分〜1時間前に服用する必要があります。

 Tadalafilが食事の影響を受けないのに対して、高脂肪食によりsildenafilの効果発現が遅れ、vardenafilは効果が減弱します。Sildenafilとvardenafilは空腹時に服用するのが最も効果的です。

 心臓の病気で、硝酸剤(ニトログリセリンを主成分とするパッチや舌下スプレー)で治療を受けている方は、いずれの薬も服用することができません。併用した場合には、急激な血圧低下により死に至る危険があります。

 ED治療は上記薬剤が中心となりますが、その他の治療法として 陰圧式勃起補助具や 陰茎海綿体注射があります。また、禁煙、節酒、運動といった生活習慣の改善やストレスマネジメントも非常に重要です。

 さて、2016年最後のお薬の時間でしたが、今回で連載が60回となりました。毎月一回とカメの歩みのようですが、この5年間一度も立ち止まることなく執筆を続けてくることができたのは、一重に読者の皆様の励ましのお陰です。この場を借りて心より感謝申し上げます。どうか楽しいクリスマス、良い新年をお迎えください。

【参考】Pharmacy Compass http://www.pharmacycompass.ca/BestPrice (Pacific Blue Cross)

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

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