2017年9月21日 第38号

 薬局には、時間をかけて処方せん薬から市販薬へと販売形態が変わった薬がいくつもあり、モーニングアフターピルと呼ばれるレボノルゲストレル(LNG)を主成分とした緊急避妊薬(Emegency Contraceptive Pill; ECP)もその一つです。発売当初は処方せん薬として販売されていましたが、その後「要相談薬」へ、そして現在では相談不要の市販薬となりました。

 カナダで販売されているLNG-ECPには、商品名でplan B®、Backup Plan®、NorLevo®等があります。1.5mgのLNGを単回服用すると、一時的に卵巣からの排卵を抑制、また受精を阻害し、受精卵の着床を阻害することで避妊効果を発揮します。避妊手段なしでの性交、コンドームが破れるなどして避妊に失敗した場合、レイプ被害に遭った時など、望まない妊娠を防ぐために用いられます。LNG- ECPを薬局で市販薬として購入すると$30程度しますが、地域のパブリックヘルスユニットのユースクリニックでは、安価で提供されていることがあります。

 性交後72時間以内に服用することで効果が得られますが、時間が経つにつれて効果が減弱し、24時間以内に服用した場合は95%、48時間から72時間以内に服用した場合は61%となります。 したがって、できる限り速やかに服用することが薦められています。

 同一月経周期内でのLNG-ECPの反復使用に、安全性の問題はありませんが、緊急避妊薬としての効果が落ちて、妊娠する確率が上昇します。 LNG-ECPの使用後は、継続的に服用する経口避妊薬やパッチ、リングといった避妊方法を取ることを強くお勧めします。

 LNG- ECPの副作用には、吐き気、腹痛、倦怠感、頭痛、めまい、乳房の痛み、不正出血、消退出血があります。これらは一般的に、軽度かつ一時的なものですが、吐き気がひどい場合には、吐き気を抑えるGravol(成分名dimenhydrinate)を、また頭痛にはTylenol(acetaminophen) やAdvil(ibuprofen)を服用することで対処できます。

 LNG- ECPには、いくつかの注意事項がありますので、これらに留意しましょう。まず、LNG-ECPは中絶薬ではありません。すでに妊娠が成立している場合に、妊娠の進行を止める効果はありません。またLNG-ECPにより性感染症を防ぐこともできませんので、感染症の危険が認められる場合には、医師を受診する必要があります。さらに、plan B®パッケージには体重75kg以上の方が服用した場合には効果が落ち、体重80kg以上の方では効果がないという記載がありますが、体重やBMIと緊急避妊薬効果の減弱には密接な関係があるという報告によるものです。体重が80kg以上の女性が緊急避妊薬を必要とする場合や、性交後72時間を過ぎた後に妊娠を防ぐ方法はご存知ですか?

 銅を主成分とする子宮内装具(Copper Intrauterine Device; Cu-IUD)は、銅線がT型にコイル状に巻かれた装具で、性交後7日間以内に子宮内に挿入することで、妊卵が子宮内膜に着床するのを防ぎます。手順としては、医師を受診し、処方箋を発行してもらい、薬局でCu-IUDを購入したのち、医師が子宮内に挿入します。避妊効果は99%以上と高く、そのまま子宮内に保持することで、長期の避妊作用も期待できます。Cu-IUDの商品名にはNova T®, Mona Lisa®, Liberte TT®, Liberte UT®等々があり、これらは特徴が異なります。また、緊急避妊薬として子宮内に挿入された後、そのまま留置した場合の有効期間は5年または10年と、商品により異なります。 

 もう一つの緊急避妊薬として、Ulipristal acetate (商品名Ella®、処方せん薬)があります。この薬は、選択的プロゲステロン受容体修飾薬と呼ばれ、性交後5日以内に30mg錠を1錠内服することで緊急避妊薬としての効果が得られます。服用できる期間がLNG-ECPに比べて長く、LNG-ECPより高い効果があります。体重による効果の区分はありませんが、ボディマスインデックス(BMI)が35以上の女性では薬効が評価されていません。

 9月に入って大学や高校が始まり、またこれから秋の夜長へと季節が変わっていきます。避妊薬に関する知識として頭の隅に留めていただけると幸いです。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

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