2018年7月26日 第30号

 「認知症」についての正しい情報を伝え、誤解、偏見や差別をなくしていくための活動を始めてから、しみじみ感じていることは、今でも「認知症」=「年寄りがなる」と考えている人が多いことです。

 認知症が、世界的に深刻な社会現象といわれ始めて久しく、いろいろな研究成果から、だんだんその実態が明らかになってきました。中でも衝撃的なのは、「認知症を発症し、症状が現れるまで20年以上かかる場合もある」ことではないでしょうか。若年性の認知症を除くと、 年を取るにつれて、認知症発症の割合は高くなり、特に、75歳以上から、その割合がぐっと高まることもわかってきています。

 そこで、75歳で症状が出始めると仮定して、それまでに20年かかるとすると、発症は55歳の頃になります。55歳というと、公式に「高齢者」といわれるようになるまであと10年。会社勤めをしている人なら、そろそろ定年退職が間近に迫っているものの、現役でバリバリ働いています。自分の会社の社長として活躍している人や、自営業で、店舗やサービス業を切り盛りしている人もいるでしょう。まだまだ元気という自負があり、「認知症」のことを気にしている人はそれほどいないはずです。

 「認知症」は、何かをきっかけに進行が早まることはありますが、本来、ゆっくりと時間をかけて進行していきます。他の病気と異なり、余命宣告をされることも、手術をしないと命が助からないということもありません。症状が進行し、亡くなることになっても、直接の死因は、「認知症」そのものよりも、症状が進むにつれて発生しやすくなる「誤嚥性肺炎」や、体の他の部分の疾患によることが多くなります。「認知症」を発症しても体が長らえ、「老衰」で亡くなる場合もあります。

 そこで、母の例について考えてみました。母の場合、何かがおかしいと感じ始めたのが、亡くなる6、7年前。ですから、症状が明らかになり始めた頃は、74、75歳ということになり、 20年遡ると54、55歳。その頃、「認知症」という言葉そのものがなく、「痴呆症」や「老人ボケ」と呼ばれていた時代です。記憶をいくらたどっても、思い当たることは何もありません。むしろ、まだ「若かった」母が「ボケる」ことなど、考えるどころか、頭をよぎることさえなく、「認知症」は自分とは別世界の出来事でした。

 長い年月をかけて、本人も周りも気付かないところでじわじわと症状が進行し、まず小さな変化に気付き始めたのは、母自身のはずです。「痴呆症」に代わって、すでに「認知症」という言葉が使われ始めていたものの、世間では、「認知症は年寄りがなるもの」、「認知症になると人生終わり」、「認知症は怖い」、というような考えが、今よりもまだまだ一般的だった頃です。そんな時代から、今では、MCI(Mild Cognitive Impairment/軽度認知障害)の時点で対処すれば、認知症への移行を食い止めることができることもわかっています。ただし、この知識がなければ、「認知症」を疑いさえもしませんし、知識があっても、正しい診断が行われなければ、何も知らないのと結果は同じになってしまいます。

 自分がなったらどうしようと、「認知症」をむやみに恐れる必要はありません。「認知症」を特別視せず、「糖尿病」、「高脂血症」、「高血圧」のような、歳を重ねると誰もが罹りやすくなる他の病気と同じように扱ってください。確かに、生活習慣病であるこれらの病気は、生活習慣を改善することで、症状を自分でコントロールすることも可能ですが、「認知症」の場合、一度診断されると後戻りはできません。 それでも知ってほしい。

 知らないものや慣れないものへの恐れが偏見や差別を生む、「負のスパイラル」を断ち切らない限り、「認知症」への正しい理解は広まりません。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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