2020年2月27日 第9号

 認知症の種類のうち、罹患者が最も多いアルツハイマー型認知症の大きな原因にひとつとされているのが、「脳のゴミ」である、「アミロイドβ蛋白」の蓄積です。「アミロイドβ蛋白」は、本来、脳内で分解されて消えていきます。それが何かの理由で分解しきれず、脳の神経細胞の外側に溜まってしまいます。これが、「老人斑」と呼ばれるものです。この「アミロイドβ蛋白」の蓄積が引き金となり、神経細胞内に「タウ蛋白」が溜まり、神経のシナプス障害や、神経細胞の破壊につながります。この「脳のゴミ」を排泄するために大切なのが「睡眠」です。

 脳の周囲は脳脊髄液で覆われており、「脳のゴミ」を流す役割を果たします。その量は成人で約130mlとされ、絶えず循環し、24時間に約500mlが生産されています。つまり、一日に約3回から4回、入れ替わっている計算になります。この脳脊髄液は、起きている間はゆっくり流れ、「脳のゴミ」を流す力があまりないとされています。反対に、寝ている間は、自律神経やホルモンなどの働きにより、脳脊髄液の量が増え、流れがよくなることにより、「脳のゴミ」を押し流してくれます。流れを良くするには、「睡眠時間」が重要です。

 スペインのマドリード大学病院の研究チームが、平均3年間にわたり、65歳以上の男女3286名を追跡調査したところ、認知症のリスクが最も低くなる「理想の睡眠時間」は約7時間だということがわかりました。

 平均睡眠時間が約7時間の人が、認知症および認知症の前段階と考えられている軽度認知障害のリスクが最も低かったそうです。ただし、「睡眠時間」は、短すぎても長すぎても良くなく、平均睡眠時間が6時間以下の人は、認知症および軽度認知障害のリスクが1・36倍高いという結果が出ています。これは、6時間以下の睡眠では「脳のゴミ」が十分に排出できないことによると考えられています。それならば、長く寝れば寝るほど、排出される量が増えるかというと、そういうわけでもありません。平均睡眠時間が8時間以上の人の場合も、リスクが1・27倍高くなっていました。つまり、寝すぎも認知症のリスクを高める要因のひとつになるのです。

 脳の健康を守るための「睡眠」を考える時、もうひとつ大切なのが、「睡眠の質」です。十分な時間、ぐっすり眠ることにより、「脳のゴミ」が十分に排出されます。眠りに落ちた後のことはコントロールできませんが、寝る前に何をするかで、「睡眠の質」が変わります。では、どのようにすればぐっすり眠れるのでしょうか。

 本来、私たちの体は、夜になると自然に体温が下がり、眠くなるようにできています。しかし、現代では、不規則な生活や、スマートフォンやタブレットのような電子機器の普及などにより、夜になっても体温が下がらず、夜、ぐっすり眠れない人が増えているそうです。そこで、寝る1時間ほど前に、 ぬるめのお風呂(38℃から40℃)に入浴すると、深い眠りを誘う効果があります。入浴して体が温まり、上がった体温が、入浴後に下がり始め、そのまま寝床に入れば、ぐっすり眠れる状態になります。「ぬるめ」というのが大切で、熱いお風呂に入ってしまうと、交感神経が刺激され、逆効果になります。寝る前に入浴ができなくても、温かい飲み物を飲んで体を温めると、お風呂に入った時と同じような効果が期待できます。また、夜になり、暗くなると、脳からメラトニンが分泌され、眠りを誘います。しかし、目から入る光の刺激が強いと、メラトニンの分泌が抑えられ、よく眠れません。やはり、遅くとも寝る1時間前には電子機器を使うのをやめ、寝室の照明を落とし、眠りに入る準備を整えることにより、質のいい「睡眠」につながります。

 スマートフォンを置き、温かい飲み物を飲んでから眠りに入る。ほどよい睡眠時間と深い眠りのための習慣にしてみようと思います。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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