2017年3月30日 第13号

 またまたちょっとびっくり、そして思わず笑ってしまう質問を受けた。「ウマが合う」ということわざを習いましたが、なぜ「ウシが合う」と言わないんですか、である。少し前にも、「猫舌(ねこじた)」を説明したとき、「犬舌」ではダメですか、と質問してきた同じ生徒である。もちろん冗談半分だろうが、よくまあこんなことを考えるなと、半ばあきれながらも、ユーモアのある、なかなか手ごわい日本語上級者である。

 こんなこと、日本人は真剣に考えたこともないが、そう言われてみると確かに「牛」でもいいのかも。ダメダメ。この「馬が合う」という言い方は人が馬に乗る、すなわち乗馬から出来た「ことわざ」である。

 乗馬は乗り手と馬の息が合わなければ、うまく走れない。お互いの呼吸がピタリと合っていることが大事であり、この「馬が合う」という表現ができた。文化的な背景もあり、やはり「牛」ではダメである。でも最近は「乗牛」も盛んなようで、将来は「牛が合う」もよくなるかもね、と笑った。

 この話題を日本のある人に話したら、きょとんとして、何の反応もない。普通日本人であれば「なるほどね」と笑顔の反応を示すので、こちらがちょっと焦ってしまった。実はその人、もちろん「うまが合う」という表現はご存知だが、それが「馬」と関係があるとは知らなかったとのこと。そうであれば、この話は確かに全くおもしろくない。

 先日、日本語教師養成講座の卒業生が久しぶりに学校に遊びに来てくれた。今も日本語を教えているとのこと。ランチを食べながら、これを話題にして、かなり盛り上がった。そして彼女から、「馬が合う」で思い出しましたが、「相性が合う」は正しい使い方ですか、の質問がきた。

 早速勉強会を始めた。確かに「相性が合う」はかなり使われているようである。でもこの「相性」とは自分が持っている性格などが、相手と合うかどうかのことであり、「相性がいい」や「相性が悪い」と使うべきで、「相性が合う」や「相性が合わない」は不適切な使い方とされている。

 でも、これは同じ意味の「馬が合う」や「気が合う」などがあり、思わず「合う」を使って「相性が合う」と言ってしまうからであろう。しかしやはり表現的には不自然な感じがする。

 でもでも「先生、彼氏が出来ました、すっごく相性が合うんです」などと言われたら、あまり不自然さは感じず、ましてその言い方はダメだよ、などという必要はない気がする。どんどん広まれば認められてしまうかも。昔から不適切な用法や誤用が認められ、一般化した例はたくさんある。

 その一つの例が「消耗」である。正式な読み方は「しょうこう」だが、誰かが間違って「しょうもう」と読んでしまった。そしてそれがどんどん広まって、現在では「しょうもう」のほうが一般的であり、辞書にもちゃんと載っている。この「相性が合う」もいつか辞書に載る日がくるかも。でもそんな辞書はまだまだ自分と「相性が悪い」と思いたい。

 

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