2016年10月27日 第44号

 (前号からの続き)

 ごん狐―「ウナギはヌルヌルして気持ち悪いなあ。食べられたものではないのに、人間はどうして食べるのかな?」

 暗転、ごん狐は兵十の裏をとおりすぎて行く。母は庭でひなたぼっこをしている。 

 兵十―「(泣きながら、母に)おっかあ! 今度は、ウナギをとってくるから、元気になってくれ」

 ごん狐―「(木のかげから)そうだったのか。兵十は体の弱い母のためにウナギをとりにきていたのか。いたずらをして、悪かったな。かわいそうなことをしてしまった。よし、今度は俺がウナギをつかまえてやる」

 ごん狐は冷たい川の水に立ち、来る日も来る日も、ウナギが現れるのを待ちました。

 ごん狐―「流れてくるものは、黄色い落ち葉ばかりだ。足がつめたい。ああ、痛くなってきた。ウナギはとれそうにないなあ。それならば、山でとれる栗やマッタケを持って行くのがよいだろう」 

 ごん狐、舞台そでに消えて、村人と兵十が現れる。

 兵十―「この頃、不思議なことがある」

 村人―「何事だ」

 兵十―「だれか知らんが、おれに栗やマッタケを毎日とどけてくれるだ」

 村人―「だれがそんなことをするのだ?」

 兵十―「それがわからんのだ。だれかわからんがおれの知らん間においておくだ」

 村人―「本当か」

 兵十―「本当だとも。明日見に来るがよい。その栗を見せてやる」

 村人―「へい、変なこともあるもんだ。きっと村の六地蔵さまのお助けかもしれないなあ?」

 兵十―「そうかな?」

 村人―「そうだとも。だから、毎日、六地蔵さんにお礼のお参りをするがよい」

 兵十―「そうだな、そうするべい」

 ごん狐、木のかげから出てくる。

 ごん狐―「俺が、せっかく兵十のかかさまのために栗やマッタケを届けてやったのに、六地蔵にお礼参りに行くようでは、つまらぬ。おかしな話しじゃや? でも、寒い川に、無理を言う母のためにウナギをとりに行く兵十は偉いやつだ。ウナギを逃がした俺も悪い。又、栗やきのこを届けてやろう」

  舞台は兵十の家

  ごん狐―「さあ、今日はどこへ栗を置くかな? この囲炉裏の横がよかろう」(栗を置いて舞台そでへ行こうとするごん狐を兵十が見つけて、肩から弓をはずして、ごん狐をねらう)

 兵十―「いつも、村でいたずらをしている狐だな。この弓でおどかしてやろう」(狙いをさだめ弓をはなつ)

 ごん狐―「(大声で)ああ、いてえ、いてえ コン、コン、コン」(舞台そでへ、消えてゆく)

 兵十―(家の中に入る)「おや、おや、こんなところに栗がある。(ビックリして大声で)ごん! おまえがおらに栗やきのこを届けてくれたのか?ごん、すまなかった、ゆるしてくれ」

 (幕)

ナレーター「兵十のはなった矢は、ごん狐のお尻にあたりました。矢には眠り薬がぬってあり、しばらくするとごん狐も目をさましました。時は流れ、いつの間にか傷もなおり、白い平原を歩いているごん狐を村人がみたそうです」

(終)

 


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