2019年12月19日 第51号

人生100年時代

 上記の小見出しのような言葉を頻繁に耳にするようになって久しい。だが一体これは何処に端を発し、何時ごろから人の口に上るようになったかを知る人はどの位いるのだろう。特に日本人の間では、世界に先駆け大変な勢いで高齢化が進む現状から、日本政府が率先して言い出したのではないか、と思っている人もいる。

 残念ながらそれは当たらないようだ。

 かく言う私も確固たる確信がないため、あれこれ調べてみると、発端は英国のロンドン・ビジネス・スクールの人材論、組織論の権威であるLynda Gratton教授と、経済学者であるAndrew Scott教授が『The 100- Year Life』(2016年2月)という本を出版して以来という。どおりでこちらのメディアでも「先進国では2007年以降生まれの2人に一人が、100歳まで生きると予想している」といった文言を見聞きすることが多いわけだ。

 この手の本はすぐに翻訳出版される日本では、同年10月に早速東洋経済新報社が『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』と題して上梓した。それを受けて、先日第4次安倍内閣で環境大臣に抜擢された小泉進次郎氏が、即この言葉を使用したことで日本人の間に広く浸透したそうだ。なんと!今や「まんがでわかるLIFTSHIFT」という本まで出版されているのには驚かされる。

 当本には今までよく言われていた「20年学び、40年働き、20年休む」といった3段階の人生計画は通用しない上、これからは人生の選択や生き方が大幅に多様化すると予測されているとか。更には年齢による区切りもなくなり、学び直しや転職などこれ迄余り考えられていなかった価値観が生まれることになるともいうのだ。

中曽根康弘元首相の死去

 11月29日に日本の政治家で、運輸大臣、防衛庁長官、通商産業大臣などを歴任した後、1982年からの5年間内閣総理大臣を務めた中曽根康人氏が101歳で亡くなった。若い人には現役時代の氏を知る人はいないだろうが、在任中の最大の功績は、国鉄(現JR各社)、日本電信電話公社(現NTT各社)、日本専売公社(現JT)などの民営化を実行し、戦後政治の総決算を行なった人物として語り継がれてきた。

 政治から身を引いた後も、その知名度によって各界に多大なる影響力を持った人物であったため、死後の評価は悪いものではなかった。

 だがメディアの訃報ニュースの写真を見れば、若い時はそれなりに男前ではあったものの、在りし日の生気は感じられずそこには101歳の老人の顔が写っていた。恐らく中曽根氏と言えども、容貌ばかりではなく、耳は遠くなり、体力は落ち、記憶力は衰えていたに違いない。それがまあ、一般の100歳というものだろうと思う。

マルルーニー元首相

 政治家のような公人は、死後その功績或いは悪行を語られることは避けられない。後世の人がその人物をどう評価するかは、その政策なりによって市井の人たちが得したか損したかという単純な方程式で決められることは多いと思う。どの政治家も万人に良い政策方針はなく、どんな場合も賛否両論があるのは当然だ。

 それはカナダの政治家も同じで、例えば84〜93年まで政権の座を得たブライアン・マルルーニー首相を見ても分かる。(ちなみに彼と中曽根氏は、首相の座についている時期が重なる期間がある)日系カナダ人の立場から見れば、彼はリドレス合意に終止符を打ち、補償問題を解決したことで評価は高い。だが親米路線を推進しNAFTA(自由貿易協定)の締結などが影響し、経済不況に陥ったことによって職を失った者から見れば、最悪の首相だったと思う事だろう。

 加えて在任中は私腹を肥やしたことで悪名が高かったようで、政界を去る時のGlobe & Mail紙には、ミラ夫人と共に現金が落ちこぼれんばかりのボストンバックを下げ、足早に議事堂を走り去る風刺画が掲載された。

 政界引退後は在職中の米国との繋がりによって、米加間のビジネス界で活躍し、昨年10月にはアメリカの大麻製造会社の役員に就任した。今はまだトレードマークのしゃくれた顎は健在の80歳だが、例え100歳まで生きたとしての死後、カナダ国民は彼をどの様に評価するのだろうか。

 

 


サンダース宮松敬子氏 プロフィール
フリーランス・ジャーナリスト。カナダ在住40余年。3年前に「芸術文化の中心」である大都会トロントから「文化は自然」のビクトリアに移住。相違に驚いたもののやはり「住めば都」。海からのオゾンを吸いながら、変わらずに物書き業にいそしんでいる。*「V島 見たり聴いたり」は月1回の連載です。(編集部)

 

 

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