2019年5月16日 第20号

文化果つる町

 ビクトリアはBC州の州都ではあるものの、例えばトロントやバンクーバーなどと比較すると、まさに「文化果つる町」である。音楽、絵画、映画、演劇など、どれを取っても心が揺さぶられ、目を見張るような一流のアーティストや作品が来ることはまれである。特に日本関係の催し物などは寂しいもので、日本からの著名人もバンクーバーまでは来るものの、海峡を渡ることは皆無と言える。では何が当地の「文化(culture)」か、と言えば「自然(nature)」で、ゴルフ、テニス、フィッシングといったアウトドアが好きな人にはこの上ない天国である。

 そんな中、時にビクトリア大学が開催する「**フェスティバル」「**コンフェレンス」といった催し物は、当地に住むことで鈍った私の感性をわずかではあるが刺激してくれる。だが折角の上映会や集会も、関係者以外で足を運ぶ人はごく限られており、入場を断られることはまずない。

 先日その一つであるアジア映画祭が同大学において3夜連続で開催された。インド、タイ、中国の映画が上映されたのだが、タイの作品『A gift』以外はどれも20年以上も前のもので「これトロントで観たわ」と思わず笑ってしまった。

女優 Sandra Oh

 でもお陰さまで、カナダで生活する中国人の家族を描いた『Double Happiness』は、内容もほとんど忘れかけていたし、今や大変な売れっ子になったSandra Ohの若い時を再見することができて懐かしかった。

 彼女自身は韓国系カナダ人だが、この作品では中国系カナダ人家族の22歳の長女役を演じている。一家はカナダに暮らしてはいても、家の中は100%中国式の生活。全面的に実権を握っているのは当然ながら父親で、全ては彼を中心に回っている。夫婦の差し当たっての関心事は長女の結婚である。二人は娘婿になる人は中国人を望んでいるため、ツテを頼ってはあの手この手で中国人男性(時にはゲイの男性も)を紹介してもらい娘をデートに駆り立てる。

 しかし当の本人はと言えば女優になるのが夢で、オーディションを繰り返すが思うように道は開けない。その内に親の意向とは裏腹に、白人のボーイフレンドができて両親の思いとの板挟みになる。しかしいつまでもそれを秘密にはできず、すったもんだの末ある日すべてが明るみに出てしまう。

 エンディングは親元を離れて彼女は独り立ちするのだが、狭い了見を持つ厄介な両親ではあるものの、ぬくぬくとした家庭から離れる孤独は如何ばかりか…と観客にある種の寂しさと同情を抱かせる。

食習慣

 さて上映後のディスカッションは、「親の気持ちは分かるがやはり子供の意思を尊重すべきだ」と言うのが大方の意見だった。

 私はその考えに同調しながらもより深く感じたのは、同国人以外との国際結婚で一番の軸となるのは「食」ということを改めて思ったのだ。特に中国人の場合、折に触れては家族や友人たちとテーブルを囲み、マナー云々よりは、丁々発止と談笑しながら食事を楽しむ。この雰囲気に同国人でない相手が違和感なく溶け込めるかどうかが、大きな分かれ目になると思うのだ。

 どこの国でも特有の食習慣というものがある。つまり台所で実権を握る人の国の料理を、もう一方がエンジョイできれば、国際結婚の第一の難関は突破したも同然と言えるのではないだろうか。

 ある国際結婚をした日本女性で、日本食をそれ程好まない夫を持つ人がいる。元々料理が不得意な彼女は、家庭で日本食を作ることや食べることを全面的に放棄した。その中で育った息子の一番の好物はマカロニチーズ。孫も日本人の祖母が海苔巻きを作ってくれたなどという経験はないため、初めて黒い海苔を見た時は「What's that!?」と叫んだと言う。この二人、すこぶる睦まじく暮らしている。

 またあるカナダ人の夫は、日本人妻がズルズルと音を立ててお茶漬けを食べるのが身の毛がよだつ程嫌いだったとか。この二人、離婚という結末を迎えてしまった。

 簡単には言い切れないそれぞれの事情があるとはいえ、「食」は国際結婚を維持するのに極めて大きな要素を持つことをしみじみと感じる。

 

 


サンダース宮松敬子氏 プロフィール
フリーランス・ジャーナリスト。カナダ在住40余年。3年前に「芸術文化の中心」である大都会トロントから「文化は自然」のビクトリアに移住。相違に驚いたもののやはり「住めば都」。海からのオゾンを吸いながら、変わらずに物書き業にいそしんでいる。*「V島 見たり聴いたり」は月1回の連載です。(編集部)

 

 

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