2017年6月1日 第22号

今回は更年期障害の治療法の中で、ホルモン治療に触れてゆきたいと思います。

 更年期の頃は更年期障害による症状に付随して月経不順や不正出血を伴う事があります。排卵の機序をホルモンの作用から見てみますと、排卵を促すのはホルモンの作用によるもので、頭の中の視床下部という器官がホルモンと自律神経系の中枢として重要な役割を果たしています。若い頃には気にならなかった排卵でも年齢を重ねてきますと、卵巣の反応力が低下して排卵ができなくなる事があります。排卵ができないと中枢性に排卵を促進させる卵胞刺激ホルモンが分泌され排卵を促します。しかし排卵ができなくても卵胞ホルモン( エストロジェン) を分泌する能力が保たれていれば子宮内膜は増殖を続けて、排卵が起きなければ最終的には破綻性の出血に至り性器出血が発来します。見た目には出血ですので月経の発来と思ってしまいますが、無排卵出血と呼ばれるもので月経ではありません。2~3 日や一週間程度の出血であれば生理と勘違いしても無理ないことですが、一週間、二週間と続けば異常に気付くと思います。出血が続けば貧血は勿論、悪性腫瘍も 思い浮かべることでしょうが、子宮癌の検診を定期的に お受けの方であれば悪性腫瘍よりも基礎体温を測るこ とをお勧めします。もしも低温相ばかりが続くようであれば再度出血が始まるかもしれません。このような場合には更年期の治療というよりも月経を整える意味でホルモン剤が用いられます。通常はプロジェステロン製剤が用いられますが、エストロジェンとプロジェステロンの合剤あるいはピルなども用いられます。服用期間は貧血の度合いや一般状態を勘案したうえで決められます。服用後一週間以内で出血は止まります。更に服用中止後一週間以内に消退性出血(月経様出血)が見られ、一週間以内で出血が止まり新しく次の月経周期へと移行します。また他方では不正出血を経験することなく、いきなり無月経になる方もおられます。このような時期に相前後して更年期障害の症状をきたす方が見られます。前回、前々回と更年期障害の症状についてはお知らせいたしましたが、その程度や継続期間は個人差があって様々です。勿論、程度が強ければ一番辛いのは本人、ご自身であることは当然ですが、周囲の人たちも相当に苦しい思いをいたします。もう一度更年期障害に至るまでの経過を振り返ってみましょう。加齢現象から卵巣の働きが低下し、本来保ってきたホルモン環境とは違ってきています。そのために自律神経系の失調と女性ホルモンの低下による諸症状が発来したのです。もうすでにお気付きのことでしょう。ホルモンが足りなくなったのならホルモン剤を投与すれば原因解消と考えることは、とても理にかなったこととして理解しやすく、納得しやすい説明です。これがホルモン補充療法といわれるものです。その投与法にはエストロジェン単独療法、エストロジェンとプロジェステロンの周期的療法、エストロジェンとプロジェステロン合剤を用いた治療に大別されますが、それら各々のホルモンの含有量に関しても、また投与方法に関しても様々な種類があります。その上で患者さんの状態や既往歴、あるいは服用開始後の精神的、身体的な状態を観察しながら使用するホルモン剤を選択・修正していくことになります。これらがホルモン補充療法の基本ですが、さらに付随した薬剤の必要があればホルモン剤以外にも追加投与が行われることもあります。ホルモン補充療法の副作用としては最も懸念するのは、女性ホルモンに依存する臓器の癌の発生率が高まるということですが、問題はないとする報告もあり現在様々な論議があり研究がなされていますが、明らかな結論には至ってはいないようです。ホルモン補充療法は効果の発現も早く有効率も高く効果的な治療法です。しかし治療を受ける前に、それ以外に肝臓や循環器、血液に及ぼす影響なども確認したうえで十分な意思の疎通と、十分に理解し納得した上で治療を受けることをお勧めいたします。

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。