2017年3月2日 第9号

 『肩こり』は通常でもよく見られる症状ですが、『肩こり』は筋肉に由来するもので、五十肩とは区別されています。『五十肩』と呼ばれる肩の異常は、四十代でも発症する頻度が増しているため、『四十肩』とも言われています。肩に違和感を覚えたり、寝返りを打った時に痛みを感じたり、ワイシャツなどを着るときに肩が痛んで腕が上がらなかったり、後ろに手が回らない事で、異常に気が付かれることが多い整形外科的疾患で、肩関節周囲炎と呼ばれています。

 原因は、五十歳前後で発症することからホルモンとの関係(老化との関係)が考えやすいところですが、いまだ、原因は明らかにされていません。痛みも個人差が大きく、激しい痛みで、日常生活に支障をきたして治療を必要とする方から、少々の違和感を訴える程度の方まで様々です。多くの場合、五十肩では特別の治療を要することなく一年前後で痛みから解放されますが、痛みの改善傾向が見られないばかりか、かえって痛みが強くなったり、腕の動ける範囲が少なくなったり、肩の部分に腫れや熱感を感じるようでは、専門医の受診を急ぐことは申すまでもありません。五十肩の治療法としては、温熱による湿布や加温療法が行われることが多く、必要時にのみ薬剤投与が行われます。一般的には特別な治療をせずに治ってしまう予後良好な疾患です。

 これらを、東洋医学的に見てみましょう。東洋医学では『五十肩』に相当する疾患は見当たりませんが、類似した疾患に『痺証』があります。「痺」とは「詰まって通じない」と言う意味で、人体に隈なく巡っている経絡が詰まって通じない状態を表現しています。その為に東洋医学では「不通則痛」とも言われ、痛みが有れば、気や血の巡りが障害されている可能性が高いと考え、疼痛と随伴症状との関連を考察して治療法を導きます。痺証は、行痺・痛痺・着痺と分類されたり、五体痺として、皮・肉・筋・骨・脈痺と分類されたりします。従って、痺証は 各種関節炎、痛風、結合織炎、並びに神経炎、神経痛などを含む包括的な疾患群として捉えられています。一方、古代書籍では「肩不挙」、「肩痺」、「老年肩」などと言った記載があるとも言われています。いずれにしても、分類が複雑であること自体、発病の原因が多彩でしかも病状が複雑であるが故に生じる結果と言わざるを得ません。

 「不通則痛」は結果としての表現ですから、その原因を見出さなければなりません。風寒湿や湿熱に由来するか(注1)あるいは気血水(注2)の関与によって引き起こされた病状かを、注意深く観察する必要があります。これらを踏まえたうえで弁証論治(注3)がなされ、診断治療に至ります。東洋医学での診察は、四診(注4)が基本です。顔色や肌の艶、爪の色や形、咽や腹部の診察などは西洋医学的な診察でも行われますが、更に、東洋医学独特な「脈診」と「舌診」が有ります。正確な診断を得るために必要不可欠な重要な診察です。受診の前に、色の濃い食物摂取(赤い梅干し、食紅、チョコレート、着色料を含む食材など)や舌の上に着いている苔(舌苔)を機械的に擦り取ること等は、正確な診断を下す妨げになりますので、是非とも避けたい所です。今のありのままの状態を把握し、身体が訴える無言の声を聞きたいのです。

(注1)風・寒・暑・湿・躁・火(六淫)が人間の適応能力を超えると発病因子となる。
(注2)気血水のバランスによって健康が維持されると考える体系。
(注3)合理的に過不足なく診断・治療法を提示すること。
(注4)基本的な診察法。望診(見る)・聞診(聞く)・問診(問診)・切診(触診)の4手法。

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

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