2017年7月6日 第27号

 今回は更年期障害を東洋医学的にとらえてみたいと思います。

 日頃触れることのない言葉や概念が使われますが、読んでみて下さい。まずは概念ですが人体は大自然の懐に抱かれて生存するという考えを第一義とします。大自然との密接な関係を基本にして病気の状態を“大自然の因子と人体の反応性”との関係で解釈するのです。大自然の変化は直接・間接的に人体に影響を及ぼし人体はこれに対応して適応した生理的反応あるいは適応できずに病的な反応を示したものと考えます。これらは主に感染症に対応する考え方です。一方、加齢や慢性疾患、神経系や内分泌など感染症以外の病的変化に陥った状態の病態生理の把握や、診断の方法は多少異なっても基本は類似しています。それらの診断に用いられる理論・方法を弁証と言います。代表的な弁証法には八綱弁証・六淫弁証・気血弁証・臓腑弁証などがあります。勿論ほかに弁証法は数多くあります。もう少し頑張って読んでください!

 診察は四診でなされます。望・聞・問・切と言います。簡単に説明します。望診:顔や舌・皮膚など“観て”得られた情報を診断の要素とする。聞診:声の張りやチカラ強さなど“聞いて”得られた情報を診断の要素とする。問診:何時から、どんな状態など“質問して”得られた情報を診断の要素とする。切診:脈の深さ、強さ、太さ、硬さ、反発力などの脈の性状(脈診)と手足・皮膚・腹部所見(按診)から得られた情報“触診”を診断の要素とする。これらの診察所見を理論的に組み立てて弁証を用いて考察するのです。

 以上の四つの診察法ですが理解しにくいので例を示してみます。顔が赤く(望診)イライラした口調で興奮気味に(望診・聞診)一週間前から急に汗をかいたり動悸を感じたりして(問診)来院したとしましょう。拝診すると目はやや赤く、舌は先端が赤く、舌苔は僅かに白色調を帯び、さらに云々…皮膚は乾燥気味でも手掌は汗ばんで、さらに云々…脈は沈みやや固いが弱い。左右差があって右尺脈はさらに云々…腹部では右側に軽度苦満と臍上に軽度抵抗があってさらに云々…左下腹部に軽度圧痛抵抗を認めさらに云々…等などの所見があったとしましょう。これらの所見を集めた上で弁証をするのです。この時にどの弁証法が適しているのかを判断する事は勿論必要ですが、ひとつの弁証法だけでは患者さんの身体がどのような病的状態にあるかを診断できない事も日常的で、他の弁証法を組み合わせることによって初めてどのような病的状態にあるのかを理解できる事もよくあります。

 例に挙げた方について考えてみましょう。少々耳慣れない言葉が出てきますが、もう少し我慢して読んでみてください。まず望診・聞診・問診の所見からは、心や肝の陽の異常や血の鬱滞、気の流れの異常、有熱等を伺わせる所見です。切診の所見からは柴胡剤の適応も考慮すべきです。これらをどのような生薬を配合して過不足なく患者さんに提供するか考察した上で処方が決まるのです。

 ここまで読んで来て下さってありがとうございます。とても分かり難いところがいくつかあったことと思いますが、漢方が難しいのではなくて、人間の身体の方が複雑で分かりにくく、その体調を崩している人間に適切に対応しようとするから病態の把握も、その弁証も治療法も余計に複雑で難しくなるような気がします。同じ症状でも人によって程度も随伴症状も微妙に違ってきますし、同じ病原性でも人によって傷害される程度が違っていたりします。その違いによって使う生薬の種類も量も違ってきます。ですから同じ症状でも違った処方だったり(同病異治)違った症状なのに同じ処方だったり(異病同治)することすらあるのです。貴女の病気の強さや広がりに過不足ない治療薬が処方されるように熟考し、決定されるのです。そのためには診察に時間がかかっても、治療薬のにおいが気になっても、少々苦くても効果の程を実感すれば、西洋的治療とは違った東洋医学的な治療法も治療の担い手として欠かすことができない強い味方になりますね!

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。