2017年9月7日 第36号

 子宮頚管炎・しきゅうけいかんえん?シキュウケイカンエン?何とも聞きなれない病名ですね。でも何となくどこの場所の炎症か想像できるかもしれませんね。子宮の出口にあたる部分が細く管状になっているのであたかも“頚”のように見えるので(?)頚管と呼ばれるのかもしれません(確かではありませんが…)。この頚管を含む部位で膣腔に突出した部分を子宮膣部と呼びますが、子宮頚部と言うほうが一般的に知られています。

 子宮頚癌(子宮頚部癌)と言う名前はご存知かと思います。このように子宮頚部や子宮頚管は、悪性腫瘍という点から見てとても重要な部位であると同時に、炎症と言う点から見ても、とても大切な部位でもあります。悪性腫瘍については他日に譲って、今日は炎症について話を進めたいと思います。以前は“炎症”といえば“結核”と言われた時代もありましたが、現在では性感染症(STD)が主役とも言えるほどに話題に上ります。なかでも淋菌、クラミジアが代表でしょうか。

 他にもウイルス感染やマイコプラズマなどが知られています。一般的に女性では症状に乏しいので、病勢が激しくなって初めて気がつくことも少なくありません。子宮頚管炎の原因となる細菌やウイルスでの問題点は、感染性疾患(人に感染させる病気)であることと不妊症・子宮頚癌に関連を有することではないでしょうか。

 子宮癌の発生原因ウイルスとしてHPV(human papilloma virus)はよく知られていますが、HPV感染すればすべて癌化するということではありません。症状に気がつくこともまずありませんので結構厄介ですね。他の淋菌やクラミジアも男性に比べて女性は著しく症状に乏しいのが特徴でもあります。気がつかないうちに感染を広げてしまう可能性があると言うことになります。これらに感染していても必ずしも不妊にならず妊娠することもあります。でもこんどは流産の可能性が出てきます。流産にならずに分娩まで経過が良かったとしても、赤ちゃんは産道感染の危険にさらされることになります。目の病気や肺炎の危険にさらされると言うことです。

 これらのような最悪の経過を辿らないにしても、赤ちゃんの一生を左右しかねない重大な病気が隠れているにもかかわらず、症状が乏しい為に気がつかなかったり、かなり病気が進行して初めて気がついたりすることがあります。

 ここまでお話を進めてきますと、日頃聞きなれないケイカンエンと言う病名も重要で、厄介な病気であることがお解かりいただけたかと思います。クラミジアや淋疾、梅毒など性病や性感染症などの感染巣になって当事者は勿論、パートナーにも感染を及ぼしかねない危険性やHPV感染では子宮頚癌の発症も否定できず、不妊症の一因にもなりかねませんし、産道感染によって赤ちゃんに影響を及ぼす可能性も否定できないとなると、そうとうに厄介です。おまけに自覚症状に乏しいのですから何とも困ったものです。

 過度に神経質になる必要は勿論ありませんが、全く無関心でも不幸になるだけです。…いつもと違う症状や変化を感じたら迷うことなく医療機関を受診することです。医療機関はすべて貴女の味方ですから、怖がることなく安心して受診しましょう。

 子宮癌や乳癌のチェックを定期的に受けて居られる方であれば、その折にでもひと言付け加えていただければよいのではないでしょうか。これらの頚管炎は診察すれば診断がつくものではないので、必要な検査を受ける意味でも必ず主治医に伝えましょう。

 きっとその日から不安な気持ちが吹き飛んで気持ちが安らいできます。…心の底から充実した生活が送れますよ! 

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

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