2019年2月7日 第6号

 前回の冷え性シリーズ①では、熱の産生、貯蔵、供給について見てきました。今回は、冷え性が、どのような臓器(東洋医学で言う臓器)や気血津液との関連が深いのかを見て行きましょう。若干、前回の繰り返しになりますが、今までの知識を整理しながら前に進みたいと思います。

 飲食から得られた熱の源は、産生から貯蔵、供給と順次、臓腑や気血津液などと連携を保ちながら変遷を加え、全身に行き渡ります。貴女が冷え性で悩んでいると仮定して(実際は冷え性でないが)、どのような症状に悩むか、想像してみて下さい。実際に、冷え性の方は、ご自分の何処が冷えているのか、思い出してみて下さい。足先が冷えますか?腰のまわりが冷えますか?それとも、背中が冷えますか?手先が冷えますか?その割には、顔が火照っていますか?足の裏だけ火照っていますか?手の甲は冷たいのに、手のひらは火照っていますか?・・・どうして、冷える場所が異なるのでしょうか?・・・不思議ですね。考え方の一つのヒントとして、“冷える”と考えるのではなく、反対に、温かい“熱”が上手く伝わっていないと考えてみましょう。東洋医学で表現する“脾”、“腎”、“肝”、“血”、“気”などの働き、機能が正常に働かないために“熱”の不均等が生じてきて、結果として“冷える”と考えてみましょう。例えば“脾”(消化器)の機能が不十分なために冷えるとしたら、その方は、外見的には華奢な体型で、食が細く、食べ過ぎると直ちにお腹が緩んでしまうタイ プです。熱源自体が少ないため、全身が冷える傾 向があります。それに対して、“腎”は先天の気と呼ばれる臓器ですので、“脾”と同様に熱の生成(生命活動維持)に共同して働きます。言い換えれば、脾と腎は熱に関しては、産生に共同で関与します。腎は主として腰部や身体の成長に関与するので、腎の不調は、腰のだるさや冷えに直結します。

 このようなタイプの冷え性を解決するには、いかに食べるか?が問題になります。食べれば解決できるのですが食べられないのです。食生活の留意点ですが、食べたい時に食べる事をお勧めします。無理に食べるとむしろ逆効果になって、下痢や、胃モタレ、腹満感、ひいては食べる事への強迫観念から、イライラや不安などの“肝”の症状を引き起こし、余計に病態を複雑にしてしまいます。ストレスを避ける目的としては(肝の不調を避けるには)、気の合う仲間との笑顔で語れる話題や楽しい会話。あるいは、ヨガやリラクゼーション、ダンスやハイキング、トレッキングなどで、軽い運動から始めて、徐々に体力の改善が図れれば、ストレスの解消と同時に食事の問題も解決の方向に向かってゆくものと思います。ノンビリとゆったりと時間をかけながら、決して急がず、決して焦らず、一歩一歩階段を上るように心がけたいものです。

 しかしながら、現代はストレス社会と言われるようにストレスに満ち溢れていますので、もう少し“肝”について説明を加えてみたいと思います。肝は穏やかに、ユッタリと、身体の至る所まで、まるで清らかな水で潤すかのように熱を巡らせて行きます。ところが、肝はストレスには反応しやすく、気分が塞いだり、怒り易かったり、脇腹が張った感じがしたり、上半身が火照るのに、他の部位は冷えてきたりします。食欲がなくなって、食べられなくなったり、あるいは、全く反対に、むやみに過食に走ったり(やけ食い)、アルコールの多飲に陥ったり( やけ酒)して、肥満、運動不足から、痰飲(痰飲:過飲食の結果生じる余分な産物)の蓄積が生じ、気血の流れが障害される結果、暑い時には更に暑く感じ(暑がり)、寒い時には更に冷えを強く感じるようになります(暑がりで寒がり)。現代社会では気を付けたい原因の一つです。

 次回の冷え性シリーズ③は特に女性との関連が深い“ 気”、“ 血”、“ 水(津液)”の理論の“気”と冷え性について、次々回は“血”・・・と順に話を進めて行きます。

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

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