2019年6月13日 第24号

『VANCOUVER FASHION FESTIVAL 2019』が6月9日にブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市の『Vancouver Club』で行われた。

Nikko International Inc.のプロデューサーであるDavid Chenさんが主催するこのVANCOUVER FASHION FESTIVALでは、ファッション業界の最高級独立系デザイナーらによる最新のコレクションが披露された。また、ショーの最後には、衣服ではなく花で魅せる『Floral artist show』もプログラムに組み込まれ、それを担当したのが札幌市発祥の花屋GANON FLORISTだ。10名のモデルの頭周りの装飾を担当し、中でも2名のモデルへの装飾は、デモンストレーションとして一つの作品になっていく過程を観客に披露し、会場を盛り上げた。 

「FLORIST(フローリスト)」とは『花屋』を意味する。しかし、GANON FLORISTはただの花屋ではない。花や植物を使い、独自の発想と技術で空間や人への装飾をも行う、少し変わった花屋である。

実は、GANON FLORIST代表のHikaru Seinoさんはバンクーバーとは深い縁がある。今の仕事を始めるきっかけとなったのも、バンクーバーでのワーキングホリデー生活だった。そんなSeinoさんに、ショー当日の様子やバンクーバー生活について当時の話を聞いた。

 

ショーの準備をするSeinoさん

 

「花屋さん、まじでスポーツだわ」

  VANCOUVER FASHION FESTIBAL 2019当日。準備室でGANON FLORIST代表兼フローリスト・デザイナーのHikaru Seinoさんはそう呟いた。担当のプログラムが始まる約1時間前から、次々とモデルの頭の上に、自分の作品を作っていく。「花は生きものなので、早く飾りすぎると枯れてしまいます。だから、ショーのぎりぎりまではモデルさんには飾れないんです」1人のモデルにかける時間はわずか10分。自分の頭の中にしかない設計図を頼りに、着々と作品を完成に導いた。

 この日、同じくフローリスト・デザイナーのYANASEさんと2名で10名のモデルに装飾を行った。用いた花は全て現地で調達したものである。花は税関が通らないため、事前に日本から準備してくるということができない。自分がどのような作品を観客にみせたいか完成像を描き、現地で材料を仕入れる。モデルの個性、衣装を考慮しながら現地の花でスピーディーかつ丁寧に仕上げ、観客を魅了する作品を作ることには、ある一つの目的がある。

 

VANCOUVER FASHION FESTIVAL 2019に参加される目的は何でしょうか?

 僕たちは花屋なのですが、花屋と全く関係ない場でたくさんの人に花に触れてもらう機会を作りたくて今回、参加させていただきました。僕は『世界一花を愛せる国を作りたい』という思いがあり、自然が多いカナダで1年半勉強し、花屋を立ち上げました。ただ、特に日本では、花屋は入りづらい場所なのかなって思うことがあって。そこで、もっと花を見てもらえる場・花について関心を持ってもらえる場として『HANANINGEN PROJECT』を始めました。『HANANINGEN PROJECT』というのは人の頭に花を飾ることで、自然に触れてもらう機会をもってもらうことです。頭にきれいな花が乗ると、花の名前を覚えてもらうことができます。そうすると、好きな花を言える人や植物に関心を持てる人が増えるんじゃないかと考えたんです。そういった活動をご存じだった主催者であるDavidさんに今回のファッションショーにご招待いただきました。特にファッションショーの場合は、モデルさんはもちろん、多くの観客の方に関心を持ってもらうことができるので、こういった機会を大切にさせていただいています。

 

今のお仕事を始めるきっかけは何でしたか?

 1年と少しという期間、ワーキングホリデーでバンクーバーに滞在したことです。ワーキングホリデーでカナダを選んだ理由は、日本にはない森林や野生の動物を守る法律があって、そういう自然を守る法律を作る人たちがいる国に住んでみたいと思ったことです。カナダに来てから、少しの間山の中で生活したんですけど、案の定、そこで出会う人はいい人たちばかりでした。しかも鳥が肩に乗ったり、リスが餌をもらいに来たり、土や木が当然のようにふわふわしていて、とにかくカナダの自然に感動しました。そういった経験を初めてして、日本や地球の“自然”への危機感を持つようになりました。そして、自然のことを伝えられる人が必要だと思い、自分に何ができるのかをたくさん考えられたのがバンクーバーでの生活でした。

 

バンクーバー生活での一番の気づきとは?

 経験、運、チャンスはお金で買えないということです。特に人との出会いと経験は自分の財産になりました。また、チャンスをどうやって取りに行くかを、身をもって経験しました。僕はバンクーバーに来る際に、『YESマン』になることを決めていました。とにかく自分の固定概念を壊したくて「わからない」や「できない」という言葉は一度も発しなかったんです。当時、ファッションプロデューサーのアシスタントをさせてもらっていたのですが、グラフィックデザイン、編集、DJ、フライヤーの作成等、全くやったことのない仕事を次々に任されました。でも僕はすべて「わかりました」と言って、インターネットを駆使しながら猛勉強して、応えようと努力しました。自分のやりたくない仕事をやれば経験値は上がると信じていました。

 当時は本当にお金がなくて。学校に行けるお金はもちろん、帰りのチケット代もない、買い物もできない、コーヒー一杯でさえ高い…。自分の非力さが悔しくてイングリッシュベイでよく泣いていましたよ(笑)。お金がないからこそ、『YESマン』になることでできる経験が自分の財産になると信じていました。全くの無知だった僕が、独学で勉強して、叱られて怒られながら成長できたのがバンクーバーでした。

 

今年の一番の目標は?

 花を伝えることです。これは一生の目標ですね。有名ブランドとのコラボレーションの話をいただく機会もたくさんありますが、それは二の次で、とにかく花のことをみんなに伝えたいです。HANANINGEN PROJECTを体験してくれたお客さんが「子どもに花の名前を聞かれて答えられなかった自分が恥ずかしく思えたの」とか、「自分の好きな花があってもいいんだ」とか、「外に咲いている花壇の花は誰が植えてくれたものなんだろうと目につくようになったよ」とか、言ってくれるんです。そういった人と花との関わりが増えたことを感じられる瞬間が一番幸せですね。

 

 Seinoさんはとても謙虚で、ショーの準備中も『全然話しかけていただいて大丈夫ですよ』と声をかけてくれるほど気さくな人だった。海外でのショーの参加も積極的に行う一方で、花屋の拡大も積極的に行っている。昨年はタイに花屋をオープンし、今年シドニーにもフランチャイズ店をオープンした。今後もご縁があれば国内外問わず花屋の展開をしていきたい・世界中の人と花を広げたいと語った。今後の活躍にも注目したい。

(取材 鷲野江里佳)

 

会場でモデルと共に。(左端)Seinoさん、(右端から)YANASEさん、KEIKOさん

 

ファッションショーの様子

 

ファッションショーの様子

 

観客の前でデモンストレーションをするYANASEさん

 

観客の前でデモンストレーションをするSeinoさん

 

バンクーバーで調達した花

 

ファッションショーの様子

 

ファッションショーの様子

 

ファッションショーの様子

 

読者の皆様へ

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