2019年3月7日 第10号

やらねばと思いながらもなかなか進まず、10年や20年といった年月があっという間に過ぎてしまいがちなのが身の周りの生前整理。

ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市の隣組で2月23日、シニアライフセミナー(メディアスポンサー:バンクーバー新報)が行われ、講師に安達みどりさんを迎え、生前整理についてのコツや手順、具体例がわかりやすく解説された。コンピューター関係のデータ管理については、隣組のアイパッド/アイフォン(ipad/iphone)クラスの講師・中野えりさんが担当した。

昨年11月には、終活シリーズ第1弾として、法的な手続きや必要な書類についてのセミナーが行われたが、今回はそれに引き続いての終活シリーズ第2弾である。 あいにくの悪天候にもかかわらず、会場は24名の参加者で賑わった。

 

現在、隣組で活躍する3人のチームワークにより、今回のセミナーが実現した。(中央)セミナー講師の安達みどりさん。(左)機器のデータ処理について説明した中野えりさん。(右)シニアライフセミナーの企画と運営も担当する、隣組・コミュニティーサービスの有馬正子さん

 

終い支度とは

 終い支度とは、遺族への負担を軽くするため、いざという時の準備をしておくことである。

 人生最大のストレスの第1番は配偶者との死別、2番目は離婚、3番目は引越しであるといわれている。この引っ越しに匹敵するほどの時間と労力がかかるのが生前整理。「いつかやろう」と思っていても、その「いつか」が永遠に来ないことにもなりかねない。

 人生の終焉は誰にでもやってくる。それは10年先かもしれないし、50年先かもしれないが、終い支度は体力、気力、判断力が十分あるうちから始めておきたい。

 

片付けの手順

 まずは、今後の生活に必要な物を最小限に絞ってリストアップしてみよう。ここでの重要なポイントは、今後の自分の人生を豊かにしてくれるもの、盛り上げてくれるもののみを残し、それ以外の物は思い切って処分する(捨てる、譲る、寄付する)ことだ。断捨離によって住まいの空間をすっきりとさせ、暮らしをシンプル化させたいものだ。

 ただし、生前贈与をして揉める種になりそうな、金銭的に価値のある宝石類、美術品などについては、遺言に書いて残す。片づけることが家族の揉めごとの種にならないように注意しよう。

 また、自分の状況を把握しておくことも大切だ。

 例えば子どもたちはすでに独立、配偶者も亡くなり、大きな家でそのままひとり暮らしであると仮定しよう。そこには配偶者のものがそのまま、子供たちが使っていた勉強机、衣類、成績表などまでがまだ残っていることが多い。家具などの大物は、自分で処分しておかないと、残された家族や友人への負担はかなり大きい。独立して出て行った子供たちの家具、使用しなくなり、ベースメントに放置されているロッキングチェアなどは処分する。

 タンスの中身も調べてみると、案外と必要のないものがいつまでも保存されていることがある。思い切ってタンスごと処分してしまってはどうだろう? 部屋の中もすっきりとし、スペースにも余裕ができる。

 独立した子供が残していった物は、本人よりもむしろ親の執着によって保存されていることが多い。自身で判断できない場合は持ち主に確認してから処分しよう。離れたところに住んでいてもライン(LINE)を使えば、すぐに確認することも可能だ。そのうちにやるのではなく、今すぐにでも取りかかろう。

 自分の所持品の処分については以下のとおり。

  1. 衣類…過去に必要だった服、流行遅れの服などは処分。判断の目安としては、過去2〜3年間に袖をとおさなかった服は、今後着ることはないと思ってよいだろう。
  2. 趣味の物…今ではやらなくなった手芸用品なども処分。こちらも過去2〜3年間、興味を失っていたものを今後使用する可能性は、ほぼないだろう。(今後、万一必要になった時には、また購入すればよい)。
  3. 部屋の飾り物…すでに住んでいない家族によって飾られたものがそのままになっていないだろうか。これをきっかけに、本当に自分の好きな物に変えてみてはどうだろう。
  4. 書物…例えば自分が好きな作品で、読み返さないが手の届くところにあることでうれしさが感じられるような本のみ残し、それ以外を処分する。
  5. 食器・台所用品・生活用品…まず、食器類などで欠けているものは捨ててしまう。ここでも、自分の本当に好きな物、現在使用しているものだけを取っておく。友人にもらったから、などの理由で何となく持っている食器類は処分する。たまりがちなタッパーウェアやビニール袋なども必要最小限だけ残し、あとは全て処分する。「あれば便利」から「なくても大丈夫」へと判断基準を移行させることが大切だ。
  6. 思い出にまつわるもの…アルバム・グリーティングカード・手紙など。自分のものは自身で判断すればよいが、家族写真、子供の幼少時の写真などについては、処分する前に本人から確認を取っておこう。大切な数枚だけを残し、パソコンを使用する人は、残りをデータとしてスキャン(複写)、保存することもできる。

*他人には見られたくないもの(写真・手紙など)を保存しておきたい場合は、まとめて箱に入れ、『見ないで捨ててほしい』と明記する。

 

処分の方法

  1. 市が回収するゴミやリサイクルビンで処分できない物は、リサイクルディポへ持って行く。紙製品(本やアルバムなども)、電化製品なども無料で受け付けている。ただし、マットレスや家具などは有料。
  2. ガレージセールやフリーマーケットで売る。日系センターのフリーマーケットではテーブル代(昨年は25ドル)を払えば自分の店が出せる。
  3. リサイクルショップのバリュービレッジ(Value Village)や非営利団体のサルベーションアーミー・スリフトストア(The Salvation Army Thrift Sore)などに寄付する。
  4. ビッグブラザーズ(Big Brothers)に連絡すれば、自宅まで取りにきてくれるので便利。指定された日に寄付したい衣類などをプラスティックバッグに詰め、『BB』と表示してドアの外に置く。ビッグブラザースの連絡先:604-876-2447

*物が捨てられない人は、いつか誰かのためにと保存しているケースが多い。保存するのは、本当に自分のために必要な物だけに絞ろう。

 

データ処理の手順 (講師 : 中野えり さん)

  1. まず、所持しているデジタル機器(コンピューター、タブレット、スマートフォンなど)をリストアップし、保存されているデータがどの機器に入っているかを把握し、仕分ける。自分以外の人には見せたくないデータは削除し、写真、ビデオ、連絡先、資産などについてのデータ、自動引き落としサービスを使っている場合はその詳細が家族にも分かるように保存しておく。
  2. フェイスブック(Facebook)、ツイッター(Twitter)、インスタグラム(Instagram)、ライン(LINE)などのソーシャルネットワーク(SNS)、ブログ、Eメール、ドロップボックス(Dropbox)、グーグル(Google)などのログインIDとパスワードは常に更新し、紙面にわかりやすく書いてまとめ、家族が見つけやすい場所に保管する。保管場所の写真を撮っておくのもよいだろう。

    *紙に書いて保管しておきたい重要項目
    • 現在使用しているデジタル製品の一覧(コンピューター、タブレット、携帯電話など)
    • 上記のロック解除のパスコード、ログインIDとパスワード
    • 使用しているウェブサービスの一覧、そのログインIDとパスワード
  3. Eメール、SNSのアカウントは削除ができるが、自身の死後も家族が申請すれば、残しておくことも可能だ。アカウントから個人情報が漏れると悪用される危険性もあるので、他人の個人情報が含まれるアカウントはきちんと処分する。
  4. 古くて使用しなくなった機器は、誰かに譲るか、店で下取りしてもらう(アップルの製品は下取りが保証されているものもある)。それができない場合は、リサイクルに持って行くか、廃棄処分にする。使用していた機器を手放す前には、必ず中のデータを初期化して、消去しておく。

 コンピューター関係の機器も無料で引き取ってくれるのは、バリュービレッジ(Value Village)やサルベーションアーミー・スリフトストア(The Salvation Army Thrift Sore)、そしてリサイクルセンターの『Return it』。バンクーバー市内にも数カ所あり、ロンドンドラッグス(London Drugs)・ベストバイ(Best Buy)・ホームディポ(Home Depot)・ステープルズ(Staples)の店内に『Return it』が設置されているところもある。ただし、全てのロケーションで電化製品を取り扱っているわけではないので、事前に確認が必要である。

 

終い支度を通じて

 「きょうは、皆さんが今後の自分の生き方を考えなおすチャンスにもなったと思います。物を捨てていくことによって、今まで自分が大切にしてきたのは何か、大事にしてきたのは何だったのか、そして今後は何をしていくことが自分にとって楽しいのかを考え、これからはもう自分にとって楽しくないことは止めましょう。終い支度は今後の人生を豊かに過ごすためのツール(道具)です。きょうのセミナーであったことを家族や友人と話し合い、終活についての自分の考えをざっくばらんに話し合えるような環境づくりをしてください。生前整理は大変な作業ですから、自分ひとりでやろうとはせず、家族も巻き込んでやってみてはどうでしょう。今後も隣組では終活シリーズとして、『遺言を具体的に書いてみよう』 といったようなシニアライフセミナーも企画中です。人は認知症を発症すると母国語しか思い出せなくなるそうですから、同じ母国語を持つ私たちはこれからも協力し、助け合っていきたいですね」と安達さんはセミナーを締めくくった。

 必要のない物を処分して、身の周りをすっきりとさせることで、今まで溜めてきた人生のしがらみや執着も手放し、人生を再スタートさせたいものだ。この日の参加者は、それぞれの気持ちも新たにしたことだろう。

(取材 中村みゆき)

 

安達みどりさんのユーモアあふれるトークで、あっという間に1時間半が過ぎた

 

参加者とやりとりをする安達みどりさん。安達さんは約30年間、日系の旅行社に勤務したあと、トラベルプランナーとして活躍した。今から2年前のリタイア後、自身もフラダンスを学びながら、隣組、その他の施設でシニアにフラダンスを教えている。自身の経験に基づいて、今回、終活セミナーの講師を務めることになった

 

機器のデータ処理について説明した中野えりさん。隣組のアイパッド/アイフォン(ipad/iphone)のクラスで講師を務めている

 

コンピューターも処分できるリサイクルディポ。 『Return it』のマークが目印

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。