2019年2月21日 第8号

弊紙で毎週連載中の『認知症と二人三脚』が連載100回を突破した。筆者はBC州アルツハイマー協会認定サポートグループ・ファシリテーターのガーリック康子さん。日本やカナダの医療状況、認知症予防、食生活など、ガーリックさんとの話は尽きなかった。

 

ガーリック康子さん

 

身近なニュースも取り入れて

 毎週の連載を始めて丸2年が経過した。話題を探して毎週書くのはさぞ大変なことと察するが「毎週悩みますが、書きたいことはまだまだあります」という答えがかえってきた。

 認知症の症状や例に加え、ガーリックさんが取り入れているのは身近なニュース。例えば1月31日号掲載分では、一新されたカナダの『食生活ガイド』について触れた。

 新しいガイドラインが示す摂取量は、野菜や果物が半分、残りの4分の1ずつがタンパク質と炭水化物になっている。日本人は朝はお米、昼は麺など炭水化物を多く取りがちといわれるが「脳のエネルギー源はブドウ糖で、炭水化物や砂糖などが消化されて生成されます。年を取って食が細くなっているので、量はそれほど食べなくても大丈夫と思っていませんか? 低栄養の状態から脳がエネルギー不足になり、それが認知機能低下の原因のひとつになることがあります。高齢だからこそ、栄養のある食事をすることが重要です」と提唱する。

 

受けられるサービスを探す

 読者の中には、カナダに住みながら日本の医療システムを知りたいという人だけでなく、いずれは日本に帰って老後をと思っている人も少なくない。

 日本には、物忘れ外来や、デイサービスやショートステイなどがたくさんあり、認知症に関する医療サービスを受けやすい。介護保険を使って家の中に手すりをつけたり、介護している人が確定申告で控除を受けることもできる。

 カナダにもケース・マネジャーという役割があり、デイサービスもあるが、選択肢が少ないのが現状。

 「まずはファミリードクターから専門医を紹介してもらうことが大切です」主要な総合病院には老年(Geriatric)科があり、認知症専門医もいる。英語に不安がある場合は、予約の際にBCメディカルでカバーできる「通訳アテンド」を依頼することもできる。また、外出がむずかしい人には医師の訪問制度もある。ソーシャルワーカー、ケースマネジャー、家族との連携を良くして、受けられるサービスを探すことが大切だという。

 

遠距離介護を経験して

 もともと、日本に住む母親のアルツハイマー型認知症発症がきっかけで、認知症の遠距離介護にかかわるようになった。

 「日本に一年半ぶりに帰国した際、母の様子が明らかに変だと思ったのが始まりでした。かかりつけ医が『年のせい』でかたづけていたことが、実はそうではなかったのです」

 『介護離職』する人もいるが、介護にお金がかかるので、できるだけ仕事は辞めないほうがいいと勧める。介護うつや、介護している人が病気になることもある。

 日本で継続して介護に関わることができないかわりに、知識を得るために、BC州アルツハイマー協会が主催する認知症関連のセミナーにはすべて参加し、日本で認知症サポーター認定、カナダでBC州アルツハイマー協会認定サポートグループ・ファシリテーターの認定を受けた。

 その経験を生かして、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始めた。

 

2025年問題

 人口の高齢化に伴い、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症と診断されると予測されている。早期なら進行を遅らせ状況を保つことはできるが、認知症を治す薬はない。

 「年を取ると誰でも物忘れが始まりますが、それは自然なことです。加齢による物忘れと認知症による物忘れの違いは、体験したこと自体の記憶があるかどうかにあります。例えば、今朝、朝御飯を食べたか尋ねられ、何を食べたかを思い出せなくても、食べたことは覚えていれば、加齢による物忘れと考えていいでしょう。それが、食べたこと自体を忘れているうえ、忘れている自覚がない場合、認知症による物忘れの可能性があります」

 認知症イコール・アルツハイマー型認知症ではない。アルツハイマー型認知症は認知症の種類のひとつで、そのほかに、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など、様々な種類がある。

 認知症予備軍といわれる、MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)と診断された場合でも認知症にならないこともある。体を動かしながら何かをする。脳と体を同時に動かすことが大切なのだという。

 

現在の活動

 2017年に、非営利法人『日本語認知症サポート協会』を共同設立し、それを母体とし、毎月1回『おれんじカフェ』を運営している。おれんじカフェは、認知症の人やその家族、介護者へのサポート、認知症の正しい知識の普及・啓蒙活動が目的。認知症の人や家族が安心して暮らせる地域づくりを目指す。バンクーバーのおれんじカフェでは毎月約10人から20人が参加し、認知症の家族の介護経験がある人もない人も、いろいろな意見を共有する場所となっている。

(取材 ルイーズ阿久沢)

 

認知症とアルツハイマー型認知症との関係を示す「傘」(MindStart®)

 

認知症の種類と割合 (認知症オンライン、2016年資料)

 

世界の認知症人口(日本生活習慣病予防協会)

 

「加齢による物忘れ」と「認知症による物忘れ」の違い (認知症ねっと編集部作成)

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。