2017年12月14日 第50号

バンクーバーの隣組で11月24日、「知っておきたい法律」と題したマトソン悠治弁護士による講習会が行われ、13人が参加。人生の最期を迎える準備の中で、実施や用意が望ましい法的手続きと書類が紹介された。

 

マトソン悠治弁護士

 

シニアに有用な法律回りの準備を紹介

 2012年の日本の新語・流行語大賞トップテンに選ばれた「終活」。人生の最期を迎える準備や、人生総括の取り組みを指す言葉として、すっかり世間に定着してきた。終活の内容には、墓の準備から身の回り品の整理などさまざまあるが、法律的な事柄となるとわかりにくく手を付けるのが後回しになりがちである。そんな法律回りの事柄を知り、専門家に質問できる機会を用意したのが本講習会だ。 

弁護士・公証人から受けられるサービス

 弁護士や公証人(Notary Public)が提供しているサービスのうち、終活に関するものには以下の事柄があるという。
(1)財産分配プラン
(2)遺言書の準備と実行
(3)委任状・成人後見人
(4)医療関連の意思宣言
(5)事前医療計画
(6)代理人同意書
(7)住宅の名義変更
(8)住宅ローン再融資

 「これらの書類は、準備されていると本人の家族が安心であること、準備されていない場合に比べて、時間もお金もかからなくてすむといったメリットがあります」とマトソン弁護士は語る。

(1)財産分配プラン(Estate Planning)を含む
(2)遺言書の準備と執行(Wills Preparation and Execution)

 遺言書に書くべきことは規定されていない。財産分与には、カナダ国外にいる家族も含めることができる。重要なことは誰を遺言の執行人として選ぶかである。

(3)委任状・成人後見人(Power of Attorney)

 財産管理などを人に委ねる場合に、委任状(Power of Attorney)を作成しておくとよい。委任状には、旅行などでの不在時に、各種の決断を任せるといった一時的な用途のための文書もあるが、マトソン弁護士が勧めるのは永続的委任状(Enduring Power of Attorney)の作成である。これを作成すれば、認知症などで本人が判断能力を失った際にも、代理人が銀行での出金などを代行することができる。ただし、この書面での代理人は医療看護に関する意思決定はできない。

(4)医療関連の意思宣言(Health Care Declarations)を含む
(5)事前医療計画(Advance Care Planning)

 本人に自分の意思を伝える能力がなくなった際でも、医療関連の意思を書いた書面があれば、医療、看護、介護にかかわる人たちは、この指示に従って対処することができる。延命措置の拒否など「これだけはしてほしくない」という内容を書くのが一般的だ。

(6)代理人同意書(Representation Agreements)

 医療、看護、介護の判断に関して、自分に代わり判断する代理人を決め、代理人同意書を作成するとよい。代理人の指定なく、本人の判断力が喪失した場合、暫定的医療決断代理人が法律により配偶者、子供、親、兄弟、祖父、母、孫(以下略)の順で決まるが、代理書のあるほうがより円滑に治療や介護が進められる。医療代理人に関わる法律(Representation Agreement Act)上、この同意書には、本人の判断能力が低い場合でも作成できる書面(7条の規定によるもの)と、本人が明瞭に判断できる状態でしか作成できない書面(9条によるもの)があり、その効力には次のような違いがある。

 7条と9条で委任される人物は別々でもよいが、複雑になるため、同一人物であるほうがいいとマトソン弁護士は勧める。

(7)住宅の名義変更(Residential Real Estate Transfers)

 もともと家の名義が家族との共同名義であれば、一人だけが死亡した場合は、自動的にもう一人の人の権利となるだけである。これは銀行の口座の名義も同じ。

 しかし、名義人の他界後、子供に家を譲りたい場合、法廷に出向き、承認してもらう必要がある。この手続きに税金支払いは不要だが、probate fee (検認費)という手数料を州政府に支払う義務がある。

 他人に家を贈与する場合には、名義変更の手数料と贈与税の両方がかかる。「これらのことを考え、生きているうちに子供とのジョイントオーナーシップ(共同名義)にしたり、名義を子供に変えたりすることを勧めます」とマトソン弁護士は語る。

(8)住宅ローン再融資(Mortgage Refinancing Documentation)

 マトソン弁護士は「すでにモーゲージ(住宅ローン)が終わった人で、住宅購入時よりも住宅の査定価格が上がった人は、家を担保にお金を借りて、旅行や暮らし、または孫の学費の援助などに使ってはどうか」と提案。銀行が本人のクレジットヒストリーを確認し、承認すると、このことが可能になる。

   以上の説明を終えた後、「永続的委任状と遺言書と代理人同意書の三つが特に大事です。ぜひ準備を」と伝えてマトソン弁護士は講習会を締めくくり、その後、参加者からの質問に応じた。

 

委任状と遺言書の効力

 

マトソン悠治(Yuji Matson)弁護士
ビクトリア大学法科大学院で法学を学び、弁護士の資格の取得前に、さらに九州大学で国際経済とビジネス関係の法律を学び修士の学位を取得。日本で英語を指導した経験、ビクトリア大学で現代日本文学と映画を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学でアジア研究で専攻した経験もあり日本文化に詳しい。2017年、グレーターバンクーバー日系市民協会、日本カナダ商工会議所の理事会メンバーに加わった。今後の日系コミュニティーでの活躍が期待されている。Lindsay Kenney LLP に所属。

(取材 平野香利)

 

マトソンさんの解説を隣組の谷由紀さんが日本語で通訳し、会が進められた

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