〜在バンクーバー日本国総領事岡田誠司氏と
バンクーバービジネス懇話会会長垂水裕之氏を迎えて〜

 

企友会(バンクーバー日系ビジネス協会)の2015年度年次総会及び新春懇談会が1月26日、リステルホテルで開催された。今年の新春懇談会は企友会とバンクーバービジネス懇話会の共催で行われ、両団体の会員を中心に約70人が参加。名刺交換会が賑やかに行われた。講演会では、在バンクーバー日本国総領事の岡田誠司氏が外交活動と国際社会における日本の役割をテーマに講演し、続いて懇話会会長の垂水裕之氏が銅について語った。講演の概要を以下に紹介する。

 

 

企友会・懇話会共催の新春懇談会が開催され、両団体の会員を中心に約70人が出席した

  

在バンクーバー日本国総領事 岡田誠司氏
「外交活動と国際社会における日本の役割」

国際社会のパワーバランスの変化

 昨年から今年にかけての不安定な世界情勢は、国家間のパワーバランスの変化を反映している。「アラブの春」と呼ばれた中東・北アフリカ諸国における民主化運動は大きな希望を持って受け入れられたが、独裁専制体制が崩壊した後も民主化が成功した例は少なく、むしろ事態は混迷の度合いを深めている。さらに、ウクライナ問題に端を発した欧米とロシアの対立も深刻だ。世界経済の多極化が進み、米国の相対的な地位が低下する中で、これまで米国を中心としてきた安全保障体制や政治体制が大きく揺らいでおり、これが世界のパワーバランスの不安定化に寄与している。このような世界情勢の中で、日本の外交はどうあるべきなのか。

 岡田氏は、最も重要な外交手段の一つである政府開発援助(ODA)に焦点を当て、国際社会における日本の役割について語った。

 

国際社会の平和と 安定のための取り組み

 日本の平和と安定を確保するためには、国際社会の平和と安定の実現のために活動しなければならない。

 岡田氏は、前任地であるアフガニスタンでの自らの経験を振り返りながら、日本の取り組みについて説明した。タリバン等反政府武装勢力と戦うアフガニスタン政府は、国際社会からの軍事的、政治的、経済的な支援がなければ成り立たない状況にある。アフガニスタンにおいて日本は、米国に次いで二番目に大きな支援を行っており、その支援の一つがアフガニスタン平和・再統合プログラム(APRP)への貢献だ。タリバンの中には、実際にはイスラム原理主義者ではないが、生活のために兵士になっている人が多くいる。APRPの活動の一つは、このような兵士がタリバンを離れ、再び社会統合できるよう支援することだ。岡田氏自身も宗教指導者と通訳者と共に兵士のもとを訪れ、社会復帰のための説得をしていた。防弾チョッキとヘルメットが欠かせない危険な任務だったが、多くの兵士が再統合に応じるなど、その成果は大きかった。このような取り組みの一つ一つが、日本のODAによって支えられている。

 

開発途上国における 人道支援

 ODAを使った人道支援も、重要な国際貢献だ。岡田氏が在ケニア日本国大使館にいた時に担当していたソマリアは、世界の中で人道支援を最も必要としている国の一つ。2012年に21年ぶりに新政府が樹立された後も、イスラム過激派組織アル・シャバーブ等の反政府勢力は抵抗を続けている。そのような環境で生活する人々は深刻な貧困問題に直面しており、国際社会からの生活支援が必要不可欠だ。

 ソマリアでは国連世界食糧計画(WFP)を通じた食糧援助が行われているが、道路整備が十分ではないため食糧を人々に届けられないという問題もある。そのため日本は、道路を造る支援も行ってきた。さらに、もともと遊牧民だったソマリアの人々にヤギを支給し、自立を促すという支援もある。岡田氏は貧しさの中に生きるソマリアの人々の写真を紹介しながら、人道支援の重要性を強調した。

 

 

国際社会における日本の役割について語る在バンクーバー日本国総領事の岡田誠司氏

 

ODAを通じた経済協力への期待

 平和と安全のための取り組みと人道支援に加えて重要なのが、開発途上国のインフラ整備を援助し、その国の経済発展を支えることだ。特に、日本が目指しているのは、開発途上国と日本が共に成長できるような経済協力。

 例えば、日本企業の優れた技術を使ってアフリカで必要とされている道路を造れば、それは途上国の発展を助けるだけではなく、日本経済の活性化にもつながる。つまり、「Win-Winの関係」を構築できるのだ。

 外務省の予算のほとんどはODAに使われており、2015年度の予算6854億円のうち、4238億円がODA予算だ。安倍政権が戦略的外交を推進する中、ODAの重要性は今後さらに増していくだろう。

 

 

銅について講演するバンクーバービジネス懇話会会長の垂水裕之氏

 

バンクーバービジネス懇話会会長 垂水裕之氏

「銅について」

人々の生活を支える銅

 三菱マテリアル株式会社バンクーバー事務所長として活躍する垂水氏は、ためになる余談を交えながら、銅についてわかりやすく解説した。

 銅は古代から人類に多くの恩恵をもたらしてきた金属だ。銅とスズの合金である青銅は、武器や貨幣の材料として広く使用され、文明の発展に貢献した。

 金や銀よりもはるかに安価であり、導電性、展延性、耐腐食性など優れた特性を持つ銅は、現代では主に電線や配管に使用されている。経済が発展すると電気の使用量は増加し、銅の消費も拡大する。このため銅の消費量は、経済発展のバロメーターとも言われる。しかし先進国では一人当たりの年間の銅の消費量が約10キログラムで頭打ちの傾向にある。これは一度国内で電気・通信線網が完備されると、その後は消費の伸びが期待できなくなるからだ。それに加えて、電話線に代表される通信線については、基幹部分のほとんどが光ファイバーに置き換えられている。それでもオフィスや家庭に引き込まれるラストワンマイルの通信線の多くは今も銅線だ。近年、個人が消費する情報量が爆発的に増加していることもあり、日本における銅の需要が大きく減少するまでには至っていない。しかし、銅の需要にマイナスの影響を与えるワイヤレス化は進んでおり、今後銅の消費がどのように変化していくかに注目が集まっている。

 

世界における 銅の生産と消費

 銅鉱石は鉱山で採掘された後、選鉱工程を経て、銅精鉱になる。この銅精鉱が精錬され、商品となる電気銅(銅地金)に加工される。

 2013年の世界の銅精鉱生産量を見ると、国別ではチリが圧倒的な第1位であり、第2位は中国、第3位はペルーと続く。カナダは第9位だ。米国とカナダが主要な生産国だった1960年のデータと比較すると、過去50年間で銅生産の世界市場シェアが大きくシフトしたことがわかる。  日本について見てみると、銅精錬の原料である銅精鉱は海外からの輸入に頼っているが、銅地金は国内で生産している。銅地金の生産では、世界第1位は中国であり、日本は第2位、カナダは第15位となっている。

 他方、銅の消費については、世界最大の銅消費国である中国をはじめとしたアジア地域の割合が1990年代より飛躍的に増加しており、銅の消費が経済発展のバロメーターだということが実感できる。

 

 

新春懇談会に先立って行われた2015年度企友会年次総会で昨年に引き続き会長に選出された松原雅輝氏。企友会では今年もさまざまなイベントを開催する予定だ。松原氏は「是非参加していただいて、日系のコミュニティ及びビジネスを盛り上げていくのに、ご協力をお願い致します」と語った

 

日本とカナダの銅をめぐる関係

 資源国と言われるカナダだが、銅生産では世界市場シェアが約3・5パーセントと、あまり大きな数字ではない。日本における銅精鉱の全輸入量の中では、約6パーセントがカナダからの輸入だ。チリからの輸入は約36パーセントを占めており、カナダはチリの6分の1となっている。鉱山に関しては、カナダで最大級の銅鉱山であるBC州のハイランド・バレーで年間銅生産量は約10万トン。これに比べて、現在世界最大の銅鉱山であるチリのエスコンディーダの銅生産量は年間100万トンを超えており、カナダとは大きな差がある。

 しかし、それでも日本にとってカナダから銅を輸入するメリットは多い。最大のメリットは、カントリーリスクが少なく、供給の安定性を確保できることだ。また豪州などと比べてもカナダの方が日本への輸送距離が短い。それに加えてカナダの銅鉱石は砒素などの不純物が少ないことで知られており、公害に対する意識が高い日本で、クリーンな鉱石として受け入れられている。このようなメリットがあるため、三菱マテリアルもカナダで鉱山開発に取り組んでいる。垂水氏は「引き続き当地で活動し、良い山を見つけていきたい」と語り、講演を締めくくった。

 世界を舞台に活躍する岡田氏と垂水氏の豊かな人生経験に基づいた講演は、参加者に多くの学びを与えてくれた。講演会終了後はバンクーバービジネス懇話会副会長の中村諭吉氏が挨拶し、中村氏の音頭で参加者全員による手締めが行われた。

    

(取材 船山祐衣)

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