俳優 真田広之さん

〜世界で活躍する日本の人気俳優〜

 

真田広之さんはジャンルを問わず幅広い分野で活躍している。子役を経て、歌、アイドル、アクション、舞踊、演劇、ドラマ、映画など、外見と内面において他の俳優にないものを持ち合わせている。今回映画『Mr. Holmes』のワールドプレミアのために、ベルリン国際映画祭を訪れた真田さんに話を聞いた。

 

 

インタビュー時の真田さん

  

言葉は筋肉

 『 Mr. Holmes 』に日本人の梅崎という役で出演している真田さん。昨年スティーブン・スピルバーグ監督製作のTVドラマ『エクスタント(Extant)』の、シーズン1の撮影が終わった翌日に、この映画の撮影のためロンドンへ向かったという。ハリウッドではアメリカ英語だったが、すぐにブリティッシュ英語に切り替えなければならなかった。真田さんが演じる梅崎は日本でブリティッシュ英語を勉強した、ということになっていたので、アメリカで2週間ほどトレーニングをした後、現地入りし、翌日からはすぐに撮影に入ったそうだ。「言葉は筋肉だから」と言う真田さんの言葉には説得力がある。

 

 

記者会見の様子

 

演技でなく本物になりきる

 今回脚本と共に届いた手紙で依頼された梅崎役は、真田さんにとってとても興味のある仕事だったと語る。引退後のホームズを描いているというアイディア、また世界で最も有名なキャラクターの一つである「シャーロック・ホームズ」の話の中に日本人が出てくることに感動したという。これは俳優として、また日本でシャーロック・ホームズを知っている者として「ありがたい設定」だと思ったそうだ。

 脚本を読んですぐに原作の小説シリーズを購入した。また原作の中の梅崎はワイヤーフレームのまるメガネをかけていたので、自分でアンティークショップへ出向いてメガネも購入したという。まるメガネをかけながら原作を読んでイメージを膨らませ、日常生活でもかけてみて雰囲気作りをしたそうだ。「このメガネをかけたらブリティッシュ英語になります。そんな小道具があったら欲しいな」と笑った。

 真田さんはこの映画製作では暖かい雰囲気で演技ができたという。ビル・コンドン監督とは最初、役の設定などについて、互いに意見を交換しながら電話で確認しあった。現地入りして自分がブリティッシュ英語で四苦八苦している時、監督に「梅崎はイギリスに憧れて育った男だから、プレッシャーを感じるのではなく、もっとプレイフルに思い切りブリティッシュ・アクセントを楽しめばいい」と言われて気持ちが軽くなったそうだ。思い切りしゃべった直後にカットがあり、「監督、今のはやりすぎました?」と聞くと、監督は笑いながら「いやいや、それでいいんだ」というふうに自分を引っ張ってくれたという。

 コンドン監督は真田さんについて「この役はヒロ(真田広之さん)にぴったりだと思った。しかし彼のような俳優にしては役が小さいので断られるかと心配した。彼はきちんとしたクラシックな演技トレーニングを受けているにもかかわらず、これまでハリウッドではそれを見せる機会がなかったように感じる。今回はイアンと息がぴったりで二人を見ているのが僕の喜びだった。しかも裏方まで手伝ってもらって感謝している」と語った。また真田さんの大先輩で名優のイアン・マッケランさんも「彼は役にぴったりの上、自身の経験とカルチャーもプラスになっている。俳優でなく本当の梅崎だと思った。礼儀正しさも現場に持ってきて、他の人を見習わせてくれて嬉しかった」と真田さんに対しての信頼さを隠せなかった。

 

 

『Mr. Holmes』の出演者と

 

正しい日本文化を常に意識して

 今回真田さんと2度目の共演となる女優のローラ・リニーさんも記者会見で「日本のシーン部分はヒロが間違いないように詳細にわたっていろいろヘルプしていた」と話していた。インタビューの後「広島のシーンで、背景のCGはどうでしたか?」と逆に質問をしてきた真田さん。彼は裏方セットの小道具、看板の文字の確認や修正など俳優に全く関係のない所も見て回っていたようだ。「最後まで確認したんですがどうも気になって」とかなり完璧主義の様子。間違った日本文化が伝わって笑われたりしないように、映画全体に気を配っていた。

 また真田さんは、撮影現場が唯一後輩に自分の持っているものを全部伝えて継承してもらう場所だと考えている。「先輩から教わったものに自分の経験をプラスして次に伝えていく。それは代々行われなければいけないことで、これからも喜んでやっていきたい」と語った。演技、アクション、容姿の他に、演技指導、演出や小道具にも気配りを提供できる俳優は、監督のみならず映画にとっても貴重な存在である。

 

 

『Mr. Holmes』の出演者と

 

「長年かかった」アクションと芝居のバランス

 真田さんといえばスポーツマン的でアクション映画から切り離せない部分がある。近年のハリウッド映画でも主演俳優を上回る殺陣シーンを見せている。しかし意外にも、真田さんにとってアクションとは俳優としての要素、スキルのひとつでしかないようだ。

 5歳で「劇団ひまわり」からデビューしたが、ガリガリでひ弱な少年だったそうだ。すぐに車酔いはするし、扁桃腺の摘出手術もした。小学校4年生くらいから剣道、水泳などを始め、体を鍛えるため練習に通った。「コンプレックスの反動でがんばった」という彼は、子役時代に映画を見ると、俳優がスタントなしでアクションをやっていたので、大人になった時に俳優を続けていたら、全部自分でやろうと思ったそうだ。中学に入って、歌、踊り、日本舞踊、殺陣、スタント、アクションを始めた。これらは全て、俳優として要求されたら、答えられるだけの肉体を作るための手段だったらしい。

 「アクションだけを求められてイメージが固定することは、俳優を続けていく上でストレスになる」と真田さんは語る。一時意図的にアクションなしの仕事を優先していた。そして演技だけで勝負してから、もう一度アクションを復活させた。もちろん体は常に鍛えていたそうだ。最近はアクション映画とシリアスなドラマのどちらも要求されるようになった。「長年かかってやっと自分の中で(アクションとドラマが)バランス良くなってきたかな」と微笑む。今後も求められる役のニーズに、バランスよく応えていきたいそうだ。

 ロス・アンジェルスに来てからもう10年。数々の作品を通じてキャストやスタッフと出会い、輪が繋がっていくことのありがたさを感じているという真田さん。現在『Extant』の他に別のTVドラマ『Helix』にも出演中。今年1月に始まったシーズン2では久々にアクションも見せてくれるのでファンは見逃せない。私たちと同じように日本を離れ、ハリウッドやヨーロッパで現在の位置を確立した真田さんの今後の活躍に期待したい。

 

真田広之さんのプロフィール

1960年東京都出身。5歳で子役デビューし、俳優、歌手、アイドル、またスタントもこなすアクション・スター。舞踊『玉川流』の名取で、英国シェイクスピアの演劇、ハリウッド映画、ドラマの俳優としても世界的に知られている。代表作は映画では『レイルウェイ運命の旅路』『ウルヴァリン・SAMURAI』『47Ronin』『ラストサムライ』『ラッシュアワー3』『里見八犬伝』『柳生一族の陰謀』など、子役として『新網走番外地 さいはての流れ者』『浪曲子守唄』など、舞台は『リア王』『ハムレット』など、そしてドラマは『高校教師』『Extant』『Helix』など数多い。日本アカデミー賞・最優秀主演男優賞, ブルーリボン賞・主演男優賞, キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞など、俳優としての受賞の他に英国の名誉大英帝国勲章第5位(MBE)や芸術選奨文部科学大臣賞も受賞している。現在ロス・アンジェルス在住で映画やドラマなど幅広く活躍中。日本が誇る人気俳優である。

    

(取材・写真撮影 ジェナ・パーク)

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。