2019年4月11日 第15号

「バンクーバーの沖合に生息する魚は300種類以上なのに、地元の市場に出回る魚はたったの20種類。家庭の食卓にもっといろんなおいしいお魚を届けられたら」。北米と日本の魚のマーケットに革命を起こそうと、2018年に東京からノースバンクーバーに妻子とともに移住、2018年6月にTSUKIJI FISH MARKET Inc.を起業した疋田拓也さん。その志はどんな経験から立ち上がってきたのだろう。

 

船舶免許を取って釣りを楽しんでいた

 

会社の看板に頼らぬ実力を

 疋田さんは幼い頃から父に釣りを教わり、15歳で船舶操縦免許を取得。大学では海洋生物学を専攻し、静岡の漁師たちと協同しながら漁の環境負荷を減らすための研究を行った。

 「現場を見ているうち、この業界で真に力のある存在は卸売市場の競り人だとわかりました」

 まっしぐらに築地魚市場(株)に入社。配属は高級鮮魚部に決まった。銀座久兵衛、リッツカールトン和食部など、一流どころの店が仕入れにくる部門だ。そこで一人前の競り人になるためのプロセスは、まさに修行だった。

 「『このタイ20匹、活きのいい順に並べてみろ!』って競り人である上司に言われて、僕が自分なりに考えて並べると、無言で上司が並べ替えるんです」

 高値で売れる魚はどれか。見定める観点は上司の並べた魚の順番から察するしかなかった。体の形、目の澄み具合、えらの色…。次第に上司と同じ目が養われていった。しかしながら新人の仕事は高級魚とともに低いランクの魚も買ってもらえるよう、個別に顧客へ売り込むことだ。

 「お客さんには『そんなもの買って誰が責任取るんだよ』と邪険にされるばかりでした」。

 心が折れても、とにかく売り込まなくてはいけない。0時起床、1時出社という昼夜逆転の生活もストレスだったのだろう。就職から2年半経ったある日、激しいめまいの後、意識を失った。原因不明の右内耳層破裂症だった。意識が戻っても、めまいで一人では歩けず、右耳が聞こえない。大きな挫折感が疋田さんを襲った。

 どん底から這い上がる支えとなったのは、死にものぐるいで努力し、自分の壁を越えた高校テニス部での経験と仲間たちからの熱いエールだった。

 

自分と水産業界の将来の可能性を見つめて

 2カ月で退院はしたものの完治した訳ではなかった。

 「もうこれはネタにするしかないと。何か嫌なことを言われても『あっ、右耳聞こえないもんですから』ってかわしてましたよ」

 復職後は事務職でスタート、その後「冷凍部」に異動。この逆境ともいえる事態が疋田さんに無二の力を与えた。一つの部署内でキャリアが完結するのが慣例の社内で、疋田さんだけが「鮮魚部の経験を持つ冷凍部員」となったのだ。鮮魚の現場で培われた見立ての力や知識、そしてがんばりが功を奏して、トップセールスマンに贈られる同社の社長賞を2度も受賞できた。だが、それだけでは満足ができなかった。

 「会社での将来が見えなかったんです。築地魚市場のビジネスモデルは80年前の創業時のままで、どこまで上り詰めたとしても『井の中の蛙』だと思えました」

 豊洲に移転はしても、国内外から魚を買い付けて日本国内で売るスタイルはそのままの築地魚市場(株)。ここに新たな潮流を生み出そうと、疋田さんは北米と築地の双方発の輸出入を同時に手がける試みを始めたのである。地元のリクエストを受けて、築地発の選りすぐり品をメトロバンクーバー内の個人宅へ宅配するサービスも今年3月にスタートした。

 ところでなぜバンクーバーを拠点に選んだのだろう。

 「買い付けで何度も足を運んだ馴染みのある土地だったこと、暖かい黒潮が回り込んでジョージア海峡に入り、ノースショアやフレイザー川からのミネラルを豊富に含んだ水が入り込むいい漁場だからです」

 日本の水産市場を世界に開く、いい意味での「黒船になりたい」と語る疋田さん。夢を共有する妻・友美さんと一緒に作り出す業界での新たな潮流に注目だ。

(取材 平野香利)

 

築地市場で競りの準備をする疋田さんの姿

 

(写真左から)在バンクーバー日本国総領事館・石川征幸領事、疋田拓也さん、在バンクーバー日本国総領事館・テリー・クオさん。日加貿易の強化策を在カナダ日本大使館・三宅建史一等書記官も交えて話し合った

 

 

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