日本を代表する建築家、隈研吾氏。2020年に開催される東京オリンピックの主会場となる新国立競技場のデザインを担当することが決まっている(大成建設、梓設計との共同設計)。バンクーバーの宅地開発会社WestbankとUBCのSALA(School of Architecture and Landscape Architecture)による共催で、隈研吾氏による講演が開かれた。4月12日、会場となったUBCのチャンセンターはほぼ満席となった。

 

第1部のパネルディスカッション中。左から、ジェームズ・チェン氏、隈研吾氏、マイケル・グリーン氏

 

Small Project

 講演に先立って、司会進行を務めるマイケル・グリーン氏(建築家)、SALAのディレクターで教授のロナルド・ケレット氏、Westbankのイアン・ギレスピー氏が挨拶をした。  隈氏は自身が手がけた建築物を、スライドで紹介しながらそのデザインの構造を説明していった。プログラムの第1部は小規模なプロジェクトについて、第2部では大きなプロジェクトについて話をしたが、そこに一貫して流れているのは、小さいものが組み合わされて大きなものを作り出していくというテーマだ。

 福岡県の大宰府天満宮の参道にあるスターバックスの内部には、X型に木が組まれて建物を支えているのと同時に、特徴的な景観を作り出している。また、東京・表参道に出店した台湾の菓子メーカー、サニーヒルズの店舗の木組みには、「地獄組み」という日本の伝統的手法が使われている。これは、一度組むと容易にばらすことができないためこのように呼ばれているそうだ。その他、セラミックタイル、傘、薄い石板、ポリタンクなど、いろいろな部材を使った展示物が紹介された。

 その後、マイケル・グリーン氏とジェームズ・チェン氏(建築家)が加わり、パネルディスカッションとなった。隈氏は日本の建築界で第4世代といわれているが、その前の世代のことについてチェン氏が質問した。第1世代の代表とされる丹下健三氏はコンクリート建築のパイオニアとされており、その流れは第2世代にも引き継がれていく。安藤忠雄氏などの第3世代では環境保護に目を向け、建造物のサイズは小さくなっていく。そして隈氏自身は、使用する部材の種類や細部にこだわり、また、伝統的な手法から現代的なものを作り出すことにも興味を持っていると語った。

 

Large Project

 休憩を挟んで第2部には、大規模なプロジェクトが紹介された。まず、栃木県の那珂川町にある馬頭広重美術館のスライドを示し、浮世絵画家の安藤広重の作品を参考に、レイヤーの重なりで三次元の空間を表現しようとしたと説明。また、材木や和紙など地元で生産した部材を多用したという。新潟県長岡市の市役所には、屋根のついた中庭を設置。これは昔の家にあった土間をイメージしている。この従来にない構造の建物には、市外からの観光客も合わせて年間120万人もの人が訪れるという。

 その他、新国立競技場のデザインについてや、フランス、スペイン、中国など海外での過去のプロジェクトも多数紹介した。最後に、ダウンタウンのアルバーニ通りにて現在進行中という、Westbankとの共同プロジェクトについても説明。カーブした特徴的な外観、隈氏らしい、木を多用したデザインは、バンクーバーの新しいランドマークになりそうである。そして、21世紀の建築は、都市の中の一部であるのと共に、それをとりまく自然環境の一部であることを意識したものであるべきではないかと講演を締めくくった。

 続いて、マイケル・グリーン氏、ビン・ソム氏(建築家)、ジョージ・ワグナー氏(SALA教授)を迎えてのパネルディスカッションへ移った。昨今、バンクーバーでも大手の建設会社が多くのプロジェクトを手がけ、小さな設計事務所がコンペを勝ち取ることが難しい状況であることや、住宅価格が高騰するなかでのスペース確保の問題など、さまざまな点から話し合いが活発に行われ、興味深いディスカッションとなった。

(取材 大島多紀子  写真 Dennis Gocer/The Collective You)

 

講演、パネルディスカッションともに英語で行った隈研吾氏。会場には学生らしき若い聴衆も多く訪れていた

 

左から、ロナルド・ケレット氏、ジョージ・ワグナー氏、マイケル・グリーン氏、イアン・ギレスピー氏、隈研吾氏、ビン・ソム氏、ジェームズ・チェン氏

 

ダウンタウンのアルバーニ通りに建築される、隈研吾氏がデザインするビルのモデルを前に。イアン・ギレスピー氏(左)とはこのプロジェクト以外でも共同作業をしているという

 

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