2018年5月10日 第19号

 坐骨神経痛とは、腰から足にかけて伸びている「坐骨神経」あるいはその通路が何らかの原因によって圧迫や刺激されることで現れる疼痛、痺れなどの症状である。脊椎脊髄病用語事典によると、「腰仙部坐骨神経の支配領域、即ち臀部、下肢後面あるいは外側面へ放散する疼痛自体、あるいは疼痛を呈する症候群の総称」。特徴として、坐骨神経の走行に沿い、一側の大腿後面から足まで放散する痛みが腰痛に引き続いて発症し、次にお尻や太ももの後ろ、すね、足先などに痛みや痺れの症状が現れる。ひどい時は、感覚異常、ふくらはぎの張り、冷感や灼熱感、締めつけ感など、麻痺や鋭い痛みのために歩行障害を伴うこともあり得る。「坐骨神経痛」は一つの病気を指しているということではなく、坐骨神経に関係する症状の総称となる。神経障害のないケースでも、とにかく坐骨神経に沿った疼痛が起こっているのに原因がはっきり解明されず、「坐骨神経痛」と通称されることも稀ではない。

 原因は多様で、病変部位で分類すると、根性および幹性の二つのカテゴリーに分かれる。腰部脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、腫瘍などが原因で脊椎管内脊椎神経根の所に圧迫されて起きたものは根性と呼ばれ、年齢が若い場合は、腰椎椎間板ヘルニアが多く、高齢になると、主に腰部脊柱管狭窄が原因で発症される。なお、幹性坐骨神経痛の病変部位は脊椎管から出て坐骨神経の支配区域であり、寛骨関節炎、臀部の損傷、梨状筋症候群(坐骨神経の出口の所で股関節を外転する筋肉が神経を圧迫して生じる)、腫瘍などの原因疾患が挙げられる。他に、症候性坐骨神経痛という神経に圧迫されていない場合もある。例えば、免疫力の低下によって坐骨神経が帯状疱疹ウイルスに侵されることで激痛が走り、坐骨神経領域に発疹が出る症例も日常臨床に散見され、注意が必要。神経に障害がなくても変形性骨関節症などの関連痛として、坐骨神経痛に似た痛みが出るだけで難治性のものもあり得る。

 坐骨神経痛を患った際、まず、整形外科の専門医に診察してもらうことが望ましい。レントゲン撮影やCT などの検査が原因究明に役に立つと思われる。手術適応なケースもあるし、西洋医学的に、手術ではなく保守治療で行われる時、痛み止め薬としてまず非ステロイド性消炎鎮痛剤が一般的に用いられる。また、痺れや発作的に生じる鋭い痛み(電撃痛)など神経の痛みに対しては「神経障害性疼痛治療薬」、筋肉の緊張をほぐし症状を軽くする目的で「筋緊張弛緩剤」、血流を改善して症状を和らげる目的で「血管拡張薬」なども処方される。

 しかし、いくら検査しても原因が分からない、西洋医学治療ではなかなか軽快しない坐骨神経痛の場合、東洋医学の鍼灸や漢方も選択肢の一つとなる。坐骨神経痛に対する鍼治療は、従来の西洋医学的な保守治療方法(薬や注射など)と比較して、全体的な症状の緩和度合い及び痛みの軽減程度に関して、より優位な改善がみられるとの報告があった。特に器質的に原因の分からない「坐骨神経痛」では、たまに、坐骨神経の走行に近い筋肉の損傷が原因で起きる可能性もある。原因となっている筋肉に鍼を施し、刺激を与えることで血流が良くなり、自律神経の安定も図れる。更に、鍼のインセンティブ作用で、疼痛を抑制するホルモン(エンドルフィンなど)が脳内に分泌され、脳に痛みを伝える神経の働きをブロックすることによって、痛みが伝わりにくくなる。また、リラックスできるセロトニンや幸せを感じられるオキシトシンなどのホルモンの働きも促され、不安や恐怖感が抑えられ、筋肉を緊張状態から解放させ、痛みや痺れの症状が和らぐように導く。

 実際に坐骨神経痛を東洋医学的に勘案すると腎経という経絡の虚と捉える。特に「冷え( 寒)」によるものが「腎」のバランスを崩す要因のひとつと考える。治療において、坐骨神経に沿った「膀胱経」(腎経とは表裏の関係)の経絡を使い、血流の改善を狙い、寒気を駆除するコツを把握すべき。また、痛みのあるツボだけを標的にせず、基本的に「腎経」、「膀胱経」、「肝経」、「胆経」のツボ、坐骨神経痛の特効ツボ及び反射ゾーンを陰陽五行の伝統理論に基づいた巧みな組み合わせで治療に臨む。

 漢方薬を処方する際、淤血(おけつ)(血行障害)と言われる病態に重点を置きたい。淤血が発生して、血行不良が起きれば、新鮮な酸素や栄養が不足してしまうため、神経及びその周囲の組織は、痛みと痺れという「緊急警報」とでも言うサインを出した訳である。従って、漢方薬による坐骨神経痛の治療法は、まず、冷え・湿気などのせいで被害を受けた身体を立て直してから、続いて神経痛及びその周囲の組織に発生してしまった淤血を取り除くことが肝心だと考えられる。数か月以上長引いている患者の場合は、「気」と「新鮮な血液の不足」を補う「気血双補(きけつそうほ)」の調剤方法で治療して奏功した例も少なくない。

 ただし、鍼灸と漢方薬の治療以外に、生活習慣を見直すことも予防・改善につながる。日々の生活では、ダイエットやストレッチなどを無理のない程度で行い、正確な姿勢で日常の活動をし、患部を寒気に曝すことなく温めることなどが大事。

 


医学博士 杜 一原(もりいちげん)
日本皮膚科・漢方科医師
BC州東洋医学専門医
BC Registered Dr. TCM. 
日本医科大学付属病院皮膚科医師
東京大学医学部漢方薬理学研究
東京ソフィアクリニック皮膚科医院院長、同漢方研究所所長
現在バンクーバーにて診療中。
連絡電話:778-636-3588 

 

 

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