2018年6月7日 第23号
ニキビ、医学的に尋常性غ٥瘡(Acne Vulgaris)と言い、思春期のホルモン活動が旺盛になる頃から発症する、毛包脂腺系が侵され、毛孔に一致した慢性炎症性疾患である。最初は面皰(Comedo)形成で、次は炎症を引き起こす。皮疹は赤いぶつぶつ(丘疹)、膿を持ったもの(膿疱)、硬結、嚢腫、瘢痕などが混在し、脂漏を伴うことも少なくない。10代の若い世代の悩みと一般的に思われるが、20歳を過ぎてからできる大人ニキビに悩まされている男性女性も数多くいる。発生機序は、遺伝的素因、男性ホルモンによる皮脂分泌亢進と角化、毛包内在菌(プロピオニバクテリウム、アクネス)の作用、毛包脂腺系炎症反応などが挙げられる。具体的に、何らかの原因で毛穴に余分な皮脂や古くなった角質が詰まり、それを餌として毛包内在菌(通称アクネ菌)が異常に繁殖して起こる毛包脂腺系の炎症状態。つまり、単に毛穴に皮脂や角質が詰まるだけではなく、アクネ菌の餌になる皮脂や角質が毛穴を塞いだ状態で、寝不足やストレス、加齢などによって免疫力や代謝が低下すると、アクネ菌の繁殖が活発になり炎症が起こりやすいというメカニズムが有力視されている。
ニキビの誘発因子で、今のところ分かっているのはまず、糖分と脂肪分を過剰に摂取する食事、機械的に刺激を与えること(不潔な手で弄って菌の増殖を招く、前髪など毛髪が刺激する)、化粧品の刺激やそれによって毛穴が塞がれること、ストレス(環境のストレス、疲労、不眠)など、様々な要因が言及される。また、外的諸因子、例えば、ピチロスポールムغ٥瘡や毛包炎性غ٥瘡はダニによる、ステロイドغ٥瘡や機械油غ٥瘡などは外用剤・油脂で発生する。内的諸因子、例えば、胃腸機能障害、便秘症、生理不順などもニキビの発症につながる。従って、治療の際にもこれらの誘発因子をうまく避けることを心掛けるべき。
ニキビの治療に関しては、西洋医学的に主に抗生剤の投与が主流で、赤いぶつぶつや膿を持ったものが沢山ある場合に特に使われる。抗生物質の内服期間は1ヵ月から3ヵ月が理想的だが、実際にはそれぞれ患者の症状によって異なる。なお、抗生物質の長期内服の問題点として、抗生物質の効かない菌が増えてくることがある。また、抗生剤にアレルギーのある人や胃腸の弱い人には不向きかもしれない。そのため、方針を変えて、鍼灸や漢方治療を試してみたいと思っている人が増えて来る。
東洋医学的に、鍼灸及び漢方との併用で治療に臨むケースが一般的である。既に鍼灸領域に美容を専門とする美容鍼スペシャリストも存在する。美容鍼では、鍼を刺すことによって真皮層に微小な創傷を作り、人が本来持っている修復機能を高め、傷を修復させることで、健康な肌の再生を促進する手法である。普通、人間の皮膚に傷ができると、その部分を修復するために血液や免疫細胞が優先的に集合し、皮膚組織の元になるコラーゲンやエラスチンの産出も一時的に増加する。結果として、血液循環が盛んになり、皮膚のターンオーバーも促されて、皮膚の新陳代謝が正常化することが期待できる。ターンオーバーとは、肌の新陳代謝、肌の生まれ変わりを意味する専門用語。皮膚は「表皮」「真皮」「皮下組織」から成り、さらに表皮は一番内側から「基底層(きていそう)」「有棘層(ゆうきょくそう)」「顆粒層(かりゅうそう)」「角質層(かくしつそう)」と4層構造になっている。基底層で作られた細胞は形を変えながら表面に押し上げられて行き、次第に細胞核を無くし角化細胞となる。この角化細胞は毎日新しい細胞に下から押されて、やがて表面まで上がり、最後は垢となって自然に剥がれ落ちる。このサイクルがターンオーバーと呼ばれる。つまり、表皮は絶えずに規則正しく入れ替わっているため、表皮に傷がついてもかさぶたとなって剥がれ落ち、健康な美しい肌に生まれ変わる。しかし、ターンオーバーが遅れ、古くなった角質がきちんと剥がれずに厚く積み重なるとニキビになりやすい。このターンオーバー理論を応用して、新しい肌が生まれ変わりやすい環境を整えることがニキビ治療にとって肝心である。
臨床上、アクネ菌による炎症の度合いが酷く、患部が腫れて赤く見えるニキビ(俗称赤ニキビ)は美容鍼の治療に反応しやすい。赤ニキビはターンオーバーの際にうまく古い角質層が剥がれ落ちずに厚く積み重なると起こるニキビなので、美容鍼でターンオーバーが正常化すると症状が軽くなると考えられる。
施術の際、ニキビの周辺に直接鍼を打つと同時に、東洋医学の証に合わせて全身状態を調整するために、各経絡のツボもよく使われる。これは東洋医学の強みであり、ニキビのできた顔だけではなく、あくまでも人間の体を一つまとまった単位と見てアプローチしていく。例えば、便秘症のある患者に顔面局所の治療だけでは無理なので、その症状を詳しく分析し、胃腸機能を司る脾経や胃経のツボに鍼を打つことも考えなければならない。顔全体にニキビができている場合は、普通週1回程度のペースで施術し体質の改善を図る。施術の効果として、肌のターンオーバーに合わせて、回数を重ねていくことで、ニキビのできにくい体質に改善することが可能になる。(次回に続く)
医学博士 杜 一原(もりいちげん)
日本皮膚科・漢方科医師
BC州東洋医学専門医
BC Registered Dr. TCM.
日本医科大学付属病院皮膚科医師
東京大学医学部漢方薬理学研究
東京ソフィアクリニック皮膚科医院院長、同漢方研究所所長
現在バンクーバーにて診療中。
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