2018年1月18日 第3号

新年明けましておめでとうございます。本年も皆様にとって幸多きことを祈念しております。
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 今回は、12月に行われた「親子で学ぶお箸の所作」の試験がとても好評でしたので、この内容をお話しいたします。

 「皆さん、こんにちは。前回から三カ月が経ちましたが、その後ちゃんとお箸が持てるようになりましたか?今日は、いよいよお箸の所作の試験ですね。今日の試験は普通の試験とはちょっと違います。全員合格か、全員不合格、のどちらかです。ですから、できなくて困っている人がいたらみんなで教え合って、助け合って全員合格をして目指してくださいね。それでは早速始めま〜す」

 9月半ばに「親子で学ぶお箸の持ち方」を開催しました。対象者は5歳〜10歳。参加者は15名。(この中にはご兄弟の方もいました)

 初回のセミナーは持ち方のみを教えました。お箸を正しく持てるからといって、所作ができるとは限りません。ここで終わりにすると中途半端な教えになってしまうと気付き、所作の指導を提案しました。さらに「試験を受けなければなりませんが、合格するとお箸の修了証がもらえます」との問いかけに、希望者がいたので試験を実施するに至りました。

 私はどのように試験を進めようか考えました。そこでいくら子供だからといって甘やかした試験内容はやめよう、子供たちが修了証を見るたびにあの時の緊張感と努力を思い出し、自分に自信を持ってほしいと考えました。さらに修了証に価値を持たせるために、大人と同じ試験内容にすることにしました。いつも通り「挟む。切る。裂く。押さえる」などの所作を教えました。

 この時、子供にだけ教えても家に帰ってから、復習をしたくても、それを補ってくれる方がいないと元の木阿弥になってしまいます。そこで、お母さんたちにただ見学させるのではなく、同じことを教えることにしました。

 また、本当の親子で学ばせると、お互い甘えが出てしまうと思い、セミナー中は親子を交換するアイディアが浮かび実践してみました。(これが好評だったのです)

 試験当日。

 セミナーでは最初は、親御さんに所作を教え、子供の手本になってもらいました。子供は隣で見ています。次に子供の番です。気がつくと前回よりも会場がとても静かです。前回のように騒ぐお子さんもいません。親御さんの方も口調が優しくなっていたので、お子さんたちも静かにやっていました。親子の組み合わせを変えるだけで、こんなにも効果があるのかと、私自身も驚いてしまいました。

 そして、いよいよ試験です。

 本格的に一人ずつ別室で行いました。内容は、お箸の上げ下げと所作です。もちろん試験内容を教えたからと言って、わずか15分程度で身につくはずがありません。そこで試験中という場を生かし、できない子には私がナビゲートしながら教えました。中には5歳の子もいたのですが、右手と左手がわからず、何度も失敗をしました。そこで私は、右手に“1”と書いて順番を教えました。するとすぐに覚えてくれました。ほんの数分の試験でしたが、緊張感に浸りながら、所作を身につけてくれました。

 その結果、『全員合格』です。

 帰り際、異口同音で、このような感想をいただきました。「今日は実の母親と子供のペアを代えてくれて、本当に良かったです。いつもはついイライラして怒ってしまうのですが、落ち着いて教えることができました。今後はこの経験を生かして静かに、躾をしていこうと思います」

 このアイディアを思いついたのは、初回のセミナーがきっかけでした。お箸を言われたとおり持てていないと親の方が熱くなり過ぎて、「違うでしょ。ホラ、こうでしょ!」と、お子さんを泣かせてしまったり、もめている場面を見かけたからでした。

 それから、私がもう一つ驚いたことは、8歳の男の子の行動です。彼は試験前から、「こっちに来てください」と言っても、「えっなんで?」と、ふざけていたのですが、「今日の試験は、全員合格か、全員不合格です」と言った瞬間に真顔になりました。

 お箸はチームプレーではありませんが、『合否全体責任』を与えることで、チームプレーにすることができました。自分はできるからいい、という考えで終わりにするのではなく、それに加えて、“周りを見渡す気遣い”“みんなと一緒に達成できた喜びを体験できるきっかけ”になってくれたらうれしいと思っています。

 (ちなみにバンクーバーでお箸の修了証は大人3名の方に授与させていただきました)

 


 

著書紹介
2012年光文社より刊行。「帝国ホテルで学んだ無限リピート接客術」一瞬の出会いを永遠に変える魔法の7か条。アマゾンで接客部門2位となる。
お客様の心の声をいち早く聞き取り要望に応えリピーターになりたくさせる術を公開。小さな一手間がお客様の心を動かす。ビジネスだけでなくプライベートシーンでも役立つ本と好評。

福本衣李子 (ふくもと・えりこ)プロフィール
青森県八戸市出身。接客コンサルタント。1978年帝国ホテルに入社。客室、レストラン、ルームサービスを経験。1983年結婚退職。1998年帝国ホテル子会社インペリアルエンタープライズ入社。関連会社の和食店女将となる。2005年スタッフ教育の会社『オフィスRan』を起業。2008年より(社)日本ホテル・レストラン技能協会にて日本料理、西洋料理、中国料理、テーブルマナー講師認定。FBO協会にて利き酒師認定。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。