2019年1月24日 第4号

 明けましておめでとうございます。

 今年は亥年、日本では猪ですが、中国では豚なんですね。この十二支が中国から伝わってきたとき、日本はまだ豚を飼っておらず、似ている野生の猪を豚の代わりにあてたといわれています。猪突猛進。本年もよろしくお願い申し上げます。

 日本で日本語教師をしている卒業生からの年賀メールにこんな質問が、「父親が今年60歳になるので、還暦の祝いをしますが、このお祝い、本来は数え年でするのでしょうか?」である。確かに日本には「数え年」と「満年齢」があり、ややこしい。でもこれは少し歴史を振り返れば分かりやすい。もともと日本には「数え年」しかなかった。これは大昔に中国から伝わり、日本の文化として根付いた。

 この「数え年」は生まれたときを1歳と数え、正月が来ると1歳増えていく方法である。これは年神様が毎年、正月に人々に歳を授けるために家々を訪れると考えられており、大掃除をして、目印に門松を飾り、おせち料理を作って、お正月は年神様を迎える新年の大事な儀式とされてきた。特に江戸時代になって一般庶民に広まった、といわれている。

 この「数え年」は、誕生日は関係なく、正月にみんな一緒に年を取るという考え方である。でも極端な例だが、12月31日に生まれたとすると、その時1歳であり、翌日正月に1歳プラス、わずか2日で2歳になってしまう。あまり合理的ではないが、生まれたときに1歳と数えるのは、一理あるような気もする。まさにこれが日本古来の文化だったのである。

 そして明治維新になって、文明開化。西洋文明がどんどん入ってきた。暦も太陰暦から西洋式の太陽暦に変えた。確かに外国と日にちが違うといろいろ問題が出てきたからであろう。この年齢の数え方も誕生日に年を取る西洋式に合わせようとした。すなわち生まれたときを0歳とし、誕生日を迎えるごとに1歳増えていくという考え方であり、これを日本では「満年齢」と呼ぶようにした。

 明治政府は法令を出して「満年齢」に統一しようとしたが、人々はなかなかなじめず、従来の「数え年」を使い続けたようである。そしてようやく1950年(昭和25年)に公的機関などはすべて「満年齢」とする法律を制定した。全員少なくとも1歳は若くなるので、戦後の国民の気持ちを明るくさせる効果や、国際性向上など、連合総司令部GHQ (1945年〜1952年)の指導もあったのであろう、それ以降徐々に浸透してきた。

 私の小学校入学が昭和26年。まさに切り替えの真っただ中であり、当時はよく分からなかったが、確かに二通りあって、面倒だった記憶がある。予防接種なども行なう時期が複雑で、もっと早く統一すべきだった、との意見も教授からお聞きした。またUBCの学生で、その頃日本に留学していたカナダの友人は、当時年の話になるとすぐ、「数え年」か「満年齢」か、聞かれたようで、彼はどうして日本には年齢の数え方が二つあるのか、とても不思議に思ったとのこと。なるほどである。

 現在、日本では基本的にはすべて 「満年齢」になったが、まだ「数え年」のほうに馴染みを持つご年配の方も多い。また中国や台湾、特に韓国では今なお、日常会話では「数え年」方式のほうが圧倒的に使われているようである。

 伝統行事の「七五三」や「長寿の祝い」などは、当然「数え年」で決めた祝い事である。すると 「七五三」 は満年齢にすると「六四二」になり、70歳の古希の祝いは満69歳でやらなければならない。確かにややこしい。そこで現在ではほとんど「満年齢」で行われている。数年前、私も古希の祝いは満年齢の70歳で祝った。もし「数え年」の70歳で祝おうとしたら、その一年前にやらなければならなかった。ややこしい。特に「還暦の祝い」は十二支と絡んでいる。すなわち生まれた時の干支が60年で一回りするから還暦であり、満60歳でなければ意味がなく、今年の還暦は亥年の1959年生まれの人である。「還暦の祝い」は基本的に満年齢でお祝いするのが決まりですよ、と彼女に説明した。

 今のご時世、特に海外に住んでいると、古来の「数え年」など全く必要ないと感じる。しかし厄年など「数え年」に関連性のある行事などは昔ながらのしきたりとして、「数え年」で行ないたい、という気持ちも分からなくもない。伝統文化の継承、日本語教師としては若干複雑な思いである。

 「満年齢」に関して、こんな驚きも。当然誕生日当日に年齢が加わるものと思っていたが、法律上は誕生日の前日と定められており、びっくりである。なぜ4月1日生まれが早生まれに入るのか、すごく不思議だったが、法律上は前日の3月31日に一歳加わるのだから、3月度生まれと同じになる訳である。なるほど。やっと納得である。でも、なぜこんな法律を作ったのかしら?

 いずれにせよ、日本にはこのような歴史的背景から、「数え年」と「満年齢」と二つあり、ややこしいのはやむを得ない。であれば、このような行事を行なう場合、あまり気にせず、本人や家族の都合のいいやり方で行なうのが一番よさそうである。

 本年が良い年になりますよう、猪突猛進。  でも、妄信しないよう気をつけたいと思います。

 

ご意見、ご感想は矢野アカデミー 《ホームページ www.yano.bc.ca》 までお願いします。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。