2019年4月25日 第17号

 前回のエッセイに「招き猫」のことを書いた。それを読んだ日本語上級者からこんな質問を受けた。なぜ「利益」に「ご」を付けるんですか? 最初は質問の意味がよく分からなかったが、エッセイに「招き猫のご利益」とあり、今まで「会社のご利益」など聞いたことがなく、なぜ「ご」が必要ですか、である。なるほど、これは「ご利益」と「利益」の読み方や意味の違いを意識しなければならない。

 一般的に「利益」は「りえき」と読むが、「ご利益」と書いてあると、日本人は何となく「ごりやく」と読みたくなる。うーん。同じ漢字の「利益」も「りえき」と「りやく」と、読み方を変えると、確かに意味もかなり異なる。日本語教師として今まで考えたことも、教えたこともなかったが、これは上級者でも難しい。そこで「利益」について、早速勉強会を始めた。

 まず、「益」は音読み(中国式)として、「ヤク」と「エキ」2つある。この漢字「利益」が中国から伝わってきたのは鎌倉時代といわれており、当時は「リヤク」と読んで、神仏の「恵み」という意味で使われていたようである。

 その後、もう一つの読み方「エキ」も伝わり、「利益」を「りえき」という読み方も使われ始めた。意味的にも神仏の「恵み」から広がり、「もうけ」のような意味として用いられるようになったようで、ものの本には、江戸時代の前からすでに「りやく」と「りえき」を使い分けていた、とのこと。なるほど。

 現代になって、経済的な概念が広まると、「利益」の読み方は「もうけ」を意味する「りえき」のほうが主流になった。そしてもう一つの神様仏様の「恵み」には丁寧の「ご」を付け、「御利益」や「ご利益」と書いて、「ごりやく」と読むことにしたようである。でも日本語学習者にはややこしい。なるべくひらがな書きを教えたい。

 こんな話をしていたら、その上級者から英語にも同じような単語があります、と興味深い話が出た。「interest」である。すぐ思い浮かぶ意味は「興味」だが、確かに「利益」や「利子」という意味もある。彼も「利益」からこの「interest」を思いついたとのこと。うーん、確かに同じ単語でも「興味」と「利子」ではかなり違いがある。

 なるほど、これも「興味」がどんどん膨らんで、経済的な「もうけ」と結びつき、「利益」や「利子」という意味が出来たのかも、日本語の「利益」と似ているね、と思わず頷いてしまった。

 いろいろ勉強した満足感を覚え、これは間違いなく、招き猫が招いてくれた「ご利益」だね、と乾杯した。「利益」の語源や経緯に触れ、とても神々しい、厳かな雰囲気に浸り、早速宝くじを買って、招き猫にお願いした次第である。

 

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