2020年1月1日 第1号

 「生きがいのかたち」の発信には私の中で二つの願いがあります。一つは私たちが自分の生きがいを認識し、それを大事にして生活することで、幸せな時間が増えるように。もう一つは生きがいを認識することで、周りの人をより深く理解できればとの願いです。そうした思いをベースに、生きがいの認識の視点を得るために、これまで60〜80代の方たちに話を聞いてきました。そこから見えてきたことを、ここで一度まとめてみたいと思います。

生きがいの意味

 それ以前に、そもそも「生きがい」とはどういう意味なのかを確認してみましょう。辞書をひもとくと「生きがい」とは「生きる意味、生きる目的、生きていることの喜び、幸福感」とあります。より焦点を明確にした説明では「生きていることに意義・喜びを見いだして感じる、心の張りあい」(新明解国語辞典)、「人の生を鼓舞する、人の生を根拠づけるものを広く指す」(世界大百科事典)と紹介されています。

生きがいの対象と生きがい感につながること

 私が話を聞いた人たちの多くは、定年後の仕事やボランティア、孫の世話など、何かに貢献する、誰かの役に立つことが目に見える生きがいとなっていました。ただその「誰かの役に立つ」という点は共通でも、そこから生きがい感につながるポイントは人さまざまです。例えば自分の能力や経験が生かされることや、新しい学びが生きがい感につながっている人。次世代に貢献している気持ちが充実感につながっている人。また現役時代の仕事の枠では思うようにできなかったことを、現在の活動で叶えられた喜びを語る人もいました。

 またもっと身近なことでは、家族や友人、ペットや植物との交わり、好きなものを食べたり飲んだりすること、入浴、自然に身を置くことなど、日常の活動、交流、趣味を通じての生きがいがありました。こうした場合も、第9話の市川慶輔さんのように「月に100キロ走る」と目標を決めて走りきって感じるという「達成感」が大事であったり、そこでの自分の「成長や変化」の喜び、対象との時間を「味わう楽しみ」が大事であったりと、どんなポイントが一番大きな生きがい感につながっているかは、人さまざまです。

生きがいの7つの分類

 こうしたことを、ベストセラー本『生きがいについて』(1966年)の著者で精神科医だった神谷美重子氏は、生きがいを感じている精神状態から生きがいの対象を次の7つに分類しています。

①生存充実感への欲求をみたすもの

②変化と成長への欲求をみたすもの

③未来性への欲求をみたすもの

④反響への欲求をみたすもの

⑤自由への欲求をみたすもの

⑥自己実現への欲求をみたすもの

⑦意味と価値への欲求をみたすもの

 この中で、ややわかりにくいのが未来性と意味・価値への欲求ですが、「未来性をみたすもの」とは、夢や目標を指し、「意味と価値への欲求をみたすもの」は、自分の存在意義を感じられるようなことを指し、事例として仕事や使命が紹介されています。

 この7つの分類に照らして、自分の生きがいを見つめると、自分にどんな欲求が強いのかが浮かび上がってきます。

 また私自身はシンプルに「日々の張り合い・元気づけ」になるエンジンのブースターのような生きがいを「上向きの生きがい」と呼び、絶望と見える中でも生き続ける力、命綱になるようなことを「下支えの生きがい」と捉えて、この2つの見方を使うことで、それまでと違う視点から人間を知ることができると感じています。

見えにくい生きがい

 ところで「私には生きがいがない」と思っている人にも、その人にとって生きがいとして機能しているものがあります。「よく昔のことを思い出しています」「私は自分の国に生まれて本当によかったと思う」「伴侶を亡くして辛かったけれど乗り越えてこられた」「あの世で親に再会した時に胸を張れる自分でいたい」といった自分の過去への愛おしさや、ふるさとへの誇り、試練を克服した自信などが、その例です。

 このことから「うちのお父さんは昔の自慢話ばっかり」などと小言を言いたくなったとしても、父親にとって昔を思い返すことが生きがいで、命を支え、活性化する栄養剤になっているならば「お父さん、安上がりでいいな〜」とも思えてきます。また、辛い経験をしている最中の人も、その克服がその後の生を支える大きな力になり得ると見ると、その人への声の掛け方が変わってくるように思います。そして静かな生活の中で満たされる生きがい感もたくさんある。そんな視点も持っていられたらと思います。

(取材 平野香利)

 

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