2019年12月12日 第50号

 あまり聞きなれない病名ですが意外と身近で“もしかして”と感じる方も多いと思います。なにしろ成熟婦人の半分以上あるいは80 〜90%の人たちが悩んでいるとの報告がある程、頻度の高い疾患なのです。症状としては何も思い当たる原因や理由がないのに、イライラしたり夫や子供に文句を言ったり、ひどいときには怒鳴ってみたり物を投げつけてみたり…。いつもなら気に留めない言葉や態度に妙に悪意を感じたり、疑ったり、逆にすごく落ち込んだり、不安感に襲われたり…。部屋がきれいなのにせっせとお掃除をしてみたり、洗濯物を探してまでも洗濯したり(心や気持に由来)…。頭が重く痛んだり胃痛を感じたり、背中が張ったり肩が凝ったり、乳房が張ったり痛みを感じたり、腰が痛くなったり下痢や便秘だったり(身体的症状)…。挙げてみると他にもたくさんの症状があります。でも、いつまでも症状が続くのではありません。生理が始まるとケロッと無くなったり、2〜3日で気にならなくなるのもこの病気の特徴なのです。チョッとだけ想像してみてください。昨日までイライラしていた人に今朝偶然出会い、そして目と目が合った瞬間“ニコッ”とこぼれる様な笑顔で「オハヨー」と挨拶されたら。その豹変振りにチョッとアワテルカモしれませんね。これは極端な場合の例ですが多かれ少なかれわが身を振り返ってみて思い当たることがあるかもしれません。なにしろ80〜90%の人たちがどれかの症状に悩んでいるのですから…。これがまだ、家庭の中だけのことならば良いのかもしれませんが、会社やオフィスではどうでしょう。女性の社会進出は目覚しく、指導的な立場で活躍している女性の割合はとても高く、しかも重要な役割を担っています。この女性たちの多くがPMSに悩まされているのです。もちろん程度の差があるとしてもこの多彩な精神的・肉体的症状をみずから封じ込めて我慢して、その上で行うべき仕事をこなしている姿は実に涙ぐましいと言わざるをえません。でも周りの人たちは貴女のことを理解していますか? PMSと戦っている姿に深い共感や思いやりを注いでくれていますか。…多くの場合は全く正反対な感覚・感情をもって貴女を評価していることが多いのです。…「ッたく、うちの上司は感情が激しいんだよな〜」、「たいした事じゃないのにすぐに怒るんだよ」、「かと思えば急に優しい言葉をかけたり、キチット指示を出したり、もうワカンナイヨ! ウチの上司は!」…これ程までに極端ではないにしても多かれ少なかれ似たような評価がされやすいのです。既にとても大きな落とし穴にお気付きかと思いますが、部下や同僚は病気・病人として評価していないのです。人格や人間性として貴女を評価していたとするとどうでしょうか。ホルモンのイタズラと言ってしまえばそれまでですがその代償は計り知れず大きいものですね。打開策としては、月経と自分の症状をカレンダーのようにメモしてみるとよいと思います。時間がなければ手帳でもカレンダーにでもチョッと書き込むのもよいでしょう。症状がいつも大体生理の前にあって生理の発来と共に和らいでくるようならPMSの可能性大ですね。“この症状がPMSによるものなんだ”と気がつくだけで、症状が有ってもその症状と一緒に“付き合って”いける人が結構多いのです。いつの日か「わたし今PMSなの」と言える時代が来るのかもしれませんが、まだまだ先のことでしょうから、症状が余りにも激しい場合は苦しんでばかりいないで、医療関連機関にご相談になってみるのも解決の方法ですね。

 


杉原 義信(すぎはら よしのぶ)

1948年横浜市生まれ。名古屋市立大学卒業後慶応大学病院、東海大学病院、東海大学大磯病院を経て、杉原産婦人科医院を開設。 妊娠・出産や婦人科疾患を主体に地域医療に従事。2009年1月、大自然に抱かれたカナダ・バンクーバーに遊学。

 

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