2016年8月25日 第35号

 ほとんど視力を失った男性が、アフリカ大陸の最高峰キリマンジャロ山に挑戦する。

 ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市のビル・デルさんは、大学3年生だった1975年に緑内障を発症して視力を失い始め、1986年には法的に盲目と認定された。現在でも1〜2パーセントの視力は残っているとされるが、光の加減によっては何かの影を認識できるといった程度だ。

 そんなデルさんは咋年、35年間連れ添ってきた最愛の妻レイナさんに突然、先立たれてしまった。急性の胃がんだった。1人で生きていくこれからの人生を考えた時、デルさんは今できることをやらなければと決心、それが今回のキリマンジャロ山挑戦につながった。

 デルさんは、もともと山登りをしていたわけではなかった。彼が最初に山登りらしいことを始めたのは、2009年に友人から誘われた、ノースバンクーバーのグラウス・グラインド(標高差約850メートル)だった。しかし、その魅力に取り付かれたデルさん、最近はシーズン中は毎週末ここに通うほどになっている。

 登山中に彼を先導するのは、息子のスペンサー・デルさんや友人たち。先導者がもう片方の端を握る、長さ2メートル弱の木の棒の端をデルさんは片手で握り、もう片方の手で登山用杖を左右に振り、目の前の障害物や段差をチェックしながら、山道を登る。

 また、デルさんがキリマンジャロ山挑戦を決心するまでには、いくつかの出会いがあった。盲目でエベレスト登頂に初めて成功したエリック・バイヘンマイヤーさんが、視力を失った子供たちをエベレストのベースキャンプに連れて行くという基金を創立したという話を知ったこと。

 また、グラウス・グラインドで出会った登山トレーナーが、最初はキリマンジャロ山に挑戦することを勧めたことも、彼の決心の後押しをした。

 9月10日にキリマンジャロ山に向けて出発するデルさん親子。彼らにとって、これは新しい人生の出発も意味する。成功した暁には、心からの感謝を込めて、この登頂を妻に捧げると取材に語るデルさん。さらに戻ってきてからは、妻が自分たちに尽くしてくれたように、自分たちが他の人に尽くすことを目指すため、この登山を通じてBC州アルツハイマー協会とダウン症研究基金への募金活動を行っている。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。