一時帰国から戻ってみると

父も夫も転勤族の私は、各地を転々とすることに言ってみれば慣れており、「故郷への思い」に胸焦がすタイプではありません。逆に「住めば都」タイプで、新しい土地で新しい楽しみをみつけるのはイヤじゃなし、むしろその刺激こそ充実感につながると感じているほうです。娘たちを出産後も半年~1年のスパンで海外暮らしを経験しましたが、ホームシックなどどこ吹く風、ご縁のあった土地をなかなかに気に入り、しばらく根を下ろしたいと願い始めた矢先に転勤の声を聞くというのを繰り返してきました。
ですから半年間のカナダ・ビジター滞在後、一時帰国を経て再入国を果たしてからのわがテンションには途方に暮れるばかり。「心にぽっかり穴が開いた」という既成表現がそれに近く、ビジター滞在時にはついぞ味わったことのない心境でした。娘の一人が夜中に必ず起きだして「おばあちゃんに会いた~い!(お父ちゃんじゃなくて?)」と泣くことも心身に堪えました。そう、私のホームシック以前に、娘たちの体調が飛行機酔いと時差ボケのWパンチで正常に戻らないことが何より不憫でなりませんでした。よって、母である私がロンリーな気分で引きこもっているわけにはいかず、娘たちの体調を整えると同時に、一刻も早くわが家をホームシックムードから引き離し、「カナダの生活って楽しい!」と実感してもらえるようリードしていかなきゃと使命感に駆られるのでした。

ぬくもりのある暮らしを創造

そこでまず、「悲しい」「寂しい」「不安だ」と感じられる要素を排除することに努めました。昔ひとり暮らしをしていた際、テレビやラジオをつけっ放しにしていないと落ち着かなかったのを思い出しますが、今回も部屋を「音」で満たすことで時に不安を煽りがちな静寂に蓋をしました。子育ての理想上、「テレビ番組は選んだものを。食事中はテレビを消し、家族で会話を」などと考えてきた私ですが、やむなくルール変更、テレビを常時ONに。お絵描き・ままごと・絵本読みなどの作業中は音楽を流すにとどめたり、頻繁に図書館でDVDを借りては鑑賞したりして「にぎやかなわが家」を演出しました。
そして2013年の現在、インターネットという人類史上画期的な、かつ最強の「留学の友」がいます。SkypeにつなげばPC画面の向こう側には、日本の家族のいつもと変わらない笑顔があります。私たちの夕食時=日本の昼食時がSkypeタイムとして好都合なのですが、お互い目の前の料理を突きながら、それも偶然こちらも鮭、あちらも鮭だったりして、一緒に食卓を囲んでいるような格好でおしゃべりを楽しんでいます。なんと未来チックな団欒風景でしょう。
ともあれ家の中が楽しくなってきたら、さあ外へ。雨でも雪でも出掛けずにはいられない予定をカレンダーに組み込んでいきました。よい機会ということで、かねて娘たちが希望していたバレエと昨夏から中断していたピアノをスタート。レッスン会場まではある程度距離があるので、通うだけで小さな遠足です。バスに乗ってスカイトレインに乗って、ランチを持ってたくさん寄り道して、一日のエネルギーを使い切ります(子どものエネルギー量は豊富で、一日付き合った私は子どもより早く、たいてい寝かしつけ前にエネルギー切れに……)。脱ホームシックの勢いに乗ってサイエンスワールドの年間パスを購入したのもこの時期です。カナダの冬の象徴とも言うべきアイススケートやジャグジーで体を解凍しながらのプール遊びなど全身運動を散りばめて毎日をせっせと送っているうち、プリスクールが始まり、プレイデートも再開、愛すべき日常生活が戻ってきました。まだ季節は冷たい雨が降り続いていましたが、わが家には暖かな太陽が差し込んできました。

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2013年5月30日 第22号 掲載

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