家族のよさをしみじみと

昨年7月から12月のビジター滞在を終え、半年ぶりに日本の地を踏んだ私たち親子。東京の街はクリスマスムードに浮き立っていました。主に東京駅〜東京タワー〜新宿界隈をうろうろしていたので、イルミネーションの華やかさはバンクーバー以上。混雑ぶりは比較にならず……。そんな大都会のど真ん中、夫の暮らすワンルームマンションの一室で、娘たち5歳のバースデーパーティーが開かれました。参加メンバーは家族親戚、総勢10人。ベッドを腰掛けにし、料理すら困難なままごとサイズのキッチンの前に「断捨離」してテーブルスペースを作り、娘たちがそれぞれ選んだホールケーキ二つと出来合いのローストチキンやサラダを並べ、皆で歌ったり笑ったりして過ごしました。なんとささやかであたたかな宴だったことでしょう。
引き続いて、大みそかとお正月。紅白歌合戦に年越しそば、おせち料理にお雑煮、初詣に箱根駅伝。これこそ私にとって最もありきたりで最高のお正月です。テレビの騒々しさも出掛ける先々の約束された人込みも「ああ、日本……」と心が躍ります。
なんといってもうれしかったのは日本滞在中、娘たちが四六時中ニコニコと過ごせたことです。双方の父母にとって唯一(唯二?)の孫なので、皆からかわいがられ、ちょっとわがままを言っても全部許容され、娘たちは張り切りに張り切って場を仕切っています。ずっと浮かれた状態で、歩き方もうさぎのようにぴょんぴょんしています。そんな「幸せ家族」の光景はいつまでも眺めていたいほどでしたが、その分、バンクーバーに戻る時が恐怖にも感じられるのでした。

バンクーバーへ再出発

新年1月3日。箱根駅伝復路の選手たちが走り去った後の国道を、父の車で成田空港へ向かっていました。その道中、私は混乱していました。思った以上に日本滞在が心地よく、頭の中を切り替えられずにいたのです。何もかもが楽しく、気楽でした。皆で娘たちを守り、同時に私も守られている、「我が家」の安心感がありました。
どんなモチベーションで旅立てばいいのでしょう。「もっとおばあちゃんちにいたい!」と泣いて訴える娘たちを連れて。 バンクーバーへ渡航する目的を思い出そうと努めてみました。そう、私たちは英語の勉強に行く。そして日本ではできない体験をしに。カナダには友達もできた。楽しく通えるプリスクールも見付かった。親子3人で暮らす快適な家も見付かった。私自身もこれから語学学校へ通う。「ホームシックになったのでやっぱり日本にいます」では半年間の労苦を棒に振るようなもの。バンクーバーへ戻る理由が両手の指ほどある。強い気持ちを奮い起こそうとしました。そして、娘たちに悟られないよう涙はぐっと胸の奥に押し込め、飛行機に搭乗しました。
家族と離れて暮らすこと、これは自分が意識する以上に大きなプレッシャーと隣り合わせなんだと気づきました。カナダ在住の日本人は、そんな気持ちを笑顔の下に隠して暮らしている人もきっと多いことでしょう。ビジター滞在の時期は、一つひとつ土台を積み上げていく喜びと冒険心に満ちていました。でもここからは、形成された土台の上でこつこつと営む日常生活が待っています。ここからが本当の親子留学のスタート、ゴールまで一時帰国なしにゆっくりでいいから歩き続けようーー。そう決意を新たにしようとする横で、娘たちが眠れないやら気分が悪いやら訴え、鼓舞・激励とトイレの往復に忙殺されて、感傷に浸る間もなく飛行機はバンクーバーへ近づいていくのでした。

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2013年5月23日 第21号 掲載

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