ノースバンクーバーへ

昨年7月、バンクーバー行きの飛行機に乗り込んだ私は安堵でいっぱいでした。5月に親子留学を思い立って2か月間、「本当に行けるのだろか」と現実味の薄いまま突っ走ってきたからです。この飛行機は一つのゴールであり、その達成感にひと息もふた息もついていました。
このリラックスモードは、カナダに着いてからも持続しました。祝福するような日差しの中、空港からのタクシーは、最初のホームステイ先であるノースバンクーバーへ。
緑豊かなノースバンクーバーは、出発準備の疲労を癒してくれるひたすら美しいリゾートでした。住む人の心が垣間見られる趣のある家々が並び、その庭には日本ではすでに季節が終わった青や紫のアジサイが咲き、黄色いタンポポが散在しています。定刻になると集団で帰っていくカラスたちも小さめでやさしげ、警戒心を抱かずに付き合えます。出発前に熱を出し、万全とは言えなかった娘たちの体調はすぐに安定し、同じく出発前、「咳喘息」と診断された私も、到着後まもなくしてコホンとも出なくなっていました。
街を歩けば人びとは笑顔ですれ違い、「Hi」と声を掛け合います。自分が無意識にしかめっ面だったり、「Hi」の準備ができていなかったりすると、恥ずかしくさえなりました。ショッピングモールに何日か通えば、顔見知りができ、ベンチでおしゃべりの花が咲きます。銀行へ行けば「Hello, how are you?」の後、話し込んで終わらない行員と客の姿をよく見かけたものです。
ホームステイ先の家の裏には、小川の流れる小さな森があり、ひんやりとしたその中を時々散歩しました。毎週金曜の夜にはモールの広場でバンド演奏があり、近所の人たちが集まって長い一日の終わりを楽しみます。時計がゆっくり進み、穏やかな空気に包まれて、これからの生活になんら不安を感じませんでした。

外国という気がしない街

そんなある日、スカイプ用のウェブカメラを買いに行った時のこと、店員に「カメラとマイクが一体になったものは売り切れだ」と言われ、カメラとマイクを一つずつ買って帰りました。家で確認すると、当然のようにカメラにマイク機能は付いています。私の英語力の問題もありますが、おそらく騙されたのでしょう。持っていた米ドルで買い物した際には店ごと店員ごとに手数料が変動したり、また思い返せば空港からホームステイ先までのタクシーで若干遠回りされたりと、いくつかハプニングはありました。
それに気づいた時は「Oh」と天を仰ぎましたが、夢見心地で過ごしていた私は目が覚めました。やはり外国、平和ボケの日本人ではいられません。ましてや子連れ、注意し過ぎるくらいでちょうどいいはず。
まあそんなことはあっても、概してカナダでは自然体でいられます。カナダ人の友達にはよく「外国って気がしないのよね」と話しているのですが、これまで暮らしたことのあるインドネシア、アメリカ、韓国は、確かに十分に「外国」でした。これらの国と比べ、カナダでは生活上の違和感をほとんど感じません。日本に日本人がいるのが当たり前のように、カナダには世界中の人がいるのが当たり前で、世界中から持ち寄った文化がブラッシュアップされ、何事にも大勢の納得の行く道がとられているためでしょう。
ノースバンクーバーで出会った、移住して30年になるという日系のご婦人が「人種差別、ほとんどないですよ」と話していましたが、バックグラウンドの違う人びとが争うことなく互いに尊重し合っている印象です。カナダ生活をスタートした昨年夏と今現在とで、その印象はあまり変わりません。

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2013年3月14日 第11号 掲載

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