個々の理解度に合わせて

キンダーガーテンが始まってひと月が経った頃、担任の先生との面談がありました。この面談は生活態度云々の話はなく、キンダーの授業・学習が中心テーマのじつに学校らしい面談でした。教材やノートを見せてくれ、時に娘たちに簡単なテストもしつつ、学習の進め方について丁寧に説明してくれます。義務教育の第一歩である数や文字へのアプローチ法は印象的でホホウと感心しきりでした。
キンダーのクラスには、プリスクール時代にすでに文字や数を学習している子もいればこれからスタートする子もいます。先生の手元のチェックシートには、子どもたち一人ひとりがAからZまでのアルファベット、1から20までの数字をどの程度理解しているか、どこをミスしたかが記録されており、それをもとに個々の理解度に合わせて授業を進めていくようです。そういえば別の学校に通うお友達はキンダー&1年生の合同クラスだそうで、日本的思考の私は「どうやって授業するの?」とイメージを描けずにいましたが、クラス(集団)としてのメリットを生かしながら子ども一人ひとりに働きかけていくのが授業であり、先生の力量なのかも。このスタイルはキンダーだけなのか1年生以降もそうなのかわかりませんが、少なくとも日本の黒板を使った一斉授業よりあたたかみを感じます。

最初は正確じゃなくても

担任の先生の話で特に興味深かったのは、文字へのアプローチ法。まずアルファベットAからZまでの書き方と並行してフォニックスを学びます。フォニックスは発音と綴りのパターンを知って読み書きへつなげる学習法で、「A says æ」「B says b」とリズミカルに歌いながらAからZの発音練習をします。次に、白紙のノートに子どもたちが自由に絵を描きます。知っている文字があればそれを書いてもよし。そして、描いた絵の下に先生が説明書きを加えてくれます。その説明書きは次第に子どもたち自身がするようになり、先生は「1年でこんなに書けるようになるのよ」と昨年の生徒のノートを見せてくれました。
娘のノートを見ると、もう一人の娘がキンダーを欠席した日、家で寝ている様子が描かれていました。娘の書いた説明書きには、「MaESSTISSC SESIThM IEIMSD」とあります。「My sister is sick. She is at home. I am sad」という意味だそうで、フォニックスの発音を頼りに文字を当てはめていったようです。なるほど頭文字はほとんど当たってる! 「Sad」は「SD」だから外壁を作ってから内部を整える感じ? 「私=I」「は=am」「悲しい=sad」と単語を一つずつ記憶して並べていった私のかつての英語学習法とはだいぶ様相が違います。最近は日本の学校でもフォニックスが多々取り入れられているようで、未来の日本人はもう少し滑らかな英語を話すかしら?
フォニックス的アプローチは、日本の子が日本語の文字を書き始めるプロセスともこれまた違います。フォニックスの英語が概要(不正確)から詳細(正確)へ向かっていくのに対して、日本語は最初の一文字一単語から正確さを要求されそう。日本語はひらがな50音で話し言葉を正確に書き表せる優れものです。もちろん「へ」だの「ゅ」だの「っ」だの小さな子が聞いたままを書くには難しい文字もありますが、たいてい発音通りにひらがなへ変換できるため、ひらがなを覚えてしまえば早々に判読可能な文章が書けてしまいます(漢字は脇に置いておいて)。
英語の場合、AからZの文字を完璧に書けたからといって、「I am sad」を正しく文章化できるわけではありません。でもフォニックスを用いれば、単語がわからないから本が読めない(←私の問題点)ではなく、発音から推測しながら本を読み、字を書くようになるんですね。

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2013年10月10日 第41号 掲載

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