娘との大事な約束

 双子の姉に小麦アレルギーの疑いがあることは前に
書きましたが、その後、粛々とグルテンフリー生活を続
け、娘の口内炎はだいぶマシになっています。もしかす
ると小麦アレルギーではなく、環境の変化によるストレ
スが身体に出てしまったのかもしれませんが、ま、グル
テンフリーは日本人の身体に負担のない食べ方といえ、
食生活見直しの意味でもしばらく続けてみようと考え
ています。
 そんな中、グルテンフリー生活の最大試練である、お
友達のバースデーパーティーがやって来ました。バー
スデーケーキを皆でシェアしていただくひと時は、パー
ティーのクライマックス。お友達が食べるのを横目に
じっと我慢だなんて想像するだけでも不憫。でも、かわ
いそうという意識を持たせたらなおのことかわいそう
なので、「当日ケーキを食べられない代わりにアイスク
リームケーキを買って食べよう」と約束したのです。娘
の瞳の輝き出したこと! そして、お友達のバースデー
プレゼントを購入しがてら、アイスクリームケーキ店の
ある郊外のショッピングモールへ出掛けました。

常識を覆される!?

 カナダのアイスクリームケーキ店といえば、デイリー
クイーン。以前より冷凍のガラスケースに収まるアイス
クリームデコレーションケーキにちらちら誘惑されていま
したが、ついに対面する時が来ました。「2種類買って食
べ比べしよう」なんて相談しながら店を訪れると、なんと
カットケーキの状態では一切販売しておらず、ホールケー
キのまま購入する他ないとのこと。う〜ん、大きいな、20
ドルか……と躊躇していたら、デコレーションケーキの下
にかわいらしいアイスクリームカップケーキが並んでいま
す。ただしこれもバラ売りはなく6個入りパックでの販売
でしたが、娘はこのカップケーキが気に入ったので早速、
「6個のうち、2つをここで食べます。4つを持ち帰るので
ドライアイスを入れてください」と伝えました。すると店員
さん、怪訝な顔で「ドライアイスなどありません」。へ? 
だってホールケーキのまま売ってるんでしょ? この場で
食べられないなら持って帰るしかないのに、どうやってア
イスを家まで? 涼しくなったとはいえまだ9月。頭の中が
「?」で満たされていく私に、「30分くらいなら溶けません
よ」と店員さん。「うちはスカイトレインとバスを使って30
分以上かかるから」と抗議するも、「うちだってスカイトレ
インとバスを使って帰るけどだいじょうぶよ」と太鼓判を
押してきます。私は呆気にとられ、怒る気にもならず、娘と
の約束をひたすら果たすべく購入を決意したのでした。そ
して娘たちに向き直ると、「走って帰るよ!」
 帰り道、店のサービスがいかに不十分かを娘たちに説
き、「日本では普通のケーキ屋さんでも家までの時間を聞
いてドライアイス入れてくれるよ」と日本の常識を訴え、
買い物バッグに収まるアイスクリームケーキを随時チェッ
ク。もし溶けかかっていたらバス停のベンチで食らおう
という意気込みでしたが、スカイトレインもバスも状況
を察するがごとくグッドタイミングで現れ、ジャスト30
分でわが家に着きました。
 さあ、いただきましょう! 果たしてアイスクリーム
カップケーキたちはその美貌を少しも崩すことなく、お
そらく店の冷凍ケースから出た時と同レベルのパリッ
とした感触で、アイスとしての威厳を保っていたのでし
た。店員さんの言っていたことは正しかった……。小さ
なアイスクリーム一つなら溶けてしまったでしょうが、
6つあることでお互いがドライアイスの役目を果たし保
冷し合っていたのです。カップ部分のチョコレートもア
イスを大事に守っていたようです。一ドラマあった末の
味はどんなに美味しかったことでしょう。
 数日後、お友達のバースデーパーティーに参加した
娘はうれしそうに報告してくれました。「ケーキ食べて
みたけど、お口かゆくならなかったよ!」

ご意見・ご感想・筆者へのメッセージは
バンクーバー新報編集部This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it. までお寄せ下さい

2013年10月03日 第40号 掲載

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。