夏休み後半戦の挑戦

独身時代、会社員をしていた頃はいつも旅に出たいと思っていました。忙しない日常を送っている時ほど頭の中は南の島へトリップし、現実逃避への憧れを噛みしめていました。だからまとまった休みを得た際には、距離的にも文化的にもできるだけ遠い場所を目指します。新婚旅行にキューバを選んだのもそのためです。乗り継ぎ3回、東京から20時間という長距離、何が起こるかわからないサバイバル感、日本人の稀少さ、情熱的なサルサ、シガー、モヒート……と理想的な旅の地でした(事実サバイバルな出来事にも遭遇しましたが)。旅から帰った後の疲れを伴った余韻を楽しむ時期と、次なる旅の計画を立て心待ちにする時期とで私の日常は形成されていたと言えるでしょう。
そんな旅に出たがりの私ですが、今は旅への願望がどこかへ吹っ飛んでしまいました。バンクーバーに来ていること自体が旅だという感覚からでしょうか。あるいは子育てこそがサバイバル感に満ちた冒険だからでしょうか。いや単に子連れの旅は大変だし疲れるよ、ということかな。この夏休み、それなりに予定を入れてバンクーバー市内を動き回っている私たちですが、ちょっと奮起して「一度くらいは」「娘のために」「思い出作りに」と計画し、フェリーで20分というボーエンアイランドへ日帰りの旅へ行って来ました。他にビクトリア、サンシャインコースト、ウィスラーなどの候補地がありましたが、娘たちの最大の弱点「乗り物酔い」をカバーできる近距離が決め手でした。

子連れの旅のおもしろさ

幼い子どもを連れての旅ほど計画通りにいかないものはありません。この日は早起きして一日フルでエンジョイなんて考えていたものの、なぜかその夜中に限って娘たちが交互にトイレに行き、計5回も叩き起こされる始末。寝不足はダイレクトに乗り物酔いに響くので朝は長めに寝かせ、すっかりスロースタートとなってしまいました。ダウンタウンからウェストバンクーバー、ホースシューベイ行きの急行バス(257番)に乗る予定でしたが、「FULL SORRY」の電光掲示を出して華麗にバス停を通過して行ったため、通常バス(250番)で向かうことに。頻繁な停車に加え、海岸線の蛇行ぶりは乗り物酔いへと一直線。バスを降りないとそろそろマズイという手前まで来たものの、片道一車線の海岸通りに歩道など見当たらず、歩くや跳ね飛ばされること必至といった状況で降りるに降りられません。何分後に目的地に着くかも不明で「あ、港!」「違った!」を繰り返し、いよいよ本当にマズイというというところでホースシューベイに到着。サバイバル感たっぷりのバスを降りれば、後は至って穏やかなフェリーとボーエンアイランドの旅でした。今考えれば、酔い止めを飲ませてあげればよかったな……。
ボーエンアイランドは祭りの名残か万国旗に溢れ、ファーマーズマーケットも開催され、かわいらしい建築の店が並ぶ彩り豊かな島でした。娘たちがハイキングコースへ進むのを怖がったため島ならではの自然に触れることはなく、港周辺のアーチザンスクエアでギャラリーを覗いたりアイスクリームを食べたりして2時間ほど過ごしました。なんてささやかな旅!
でもやはり足を延ばしたおかげで、人びとのやさしさに触れることができました。私が娘たちの写真を撮ろうとすると、「撮ってあげるからあなたも入ったら?」と何度か声を掛けてもらったのです。にもかかわらず最初の2回、「It's OK」と反射的に断ってしまったのが非常に悔やまれました。こうした心遣いはありがたく享受すべきだったと。それに断ったことで交流の機会まで断ち切ってしまったかもしれないと……。帰りのフェリーを降り、港のトーテムポール前で記念の一枚を撮ろうとした時、また声を掛けてくれる人が現れ、ようやく撮ってもらうことに成功しました。後で写真を確認するとなぜか撮れていなかった(!)のですが、ともあれ、あたたかい気持ちは確かに胸に残った旅でした。

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2013年8月22日 第34号 掲載

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