やっぱり差別ってある?

バンクーバー暮らしを始めて一年が経とうとしていますが、日本人ゆえアジア人ゆえに不快な思いをしたということが一度だけありました。それは冷たい雨の降る冬の夕暮れ時。傘を差し両脇に娘たちを連れて、片道4車線の大通りの交差点で信号待ちしていました。すると、そこへ自転車に乗った50代くらいの男が。横断歩道を渡ろうとしたものの手前で信号が赤に変わり、急ブレーキを強いられた様子でした。全身びしょ濡れ、思い通りにならない状況に気が立っていたのでしょう。男の口から「F……」という言葉が私たち目がけて吐き出されたのです。私は驚きと恐怖のあまり身体が動かなくなっていました。明らかに男の言葉にはアジア系人種を揶揄する単語が含まれています。この時、初めてバンクーバーにはアジア系の人を快く思わない人がいるのだという事実を突き付けられたのでした。
それまで子連れのせいか、道の横断時に車が止まってくれたりバスの座席を譲ってもらったりとカナダの人のやさしさに触れる機会が多かったので、他人に対して身構えるよりむしろ、常にオープンマインドであるべしと肝に銘じていたくらいでした。この一件で気を引き締め直すと同時に、ちょっと人込み怖いな……しばらく遠慮したいな……とそんな弱気すら顔を出してきました。
翌日、それでも習い事のため私たち親子はダウンタウンの真ん中にいました。心なしかドラックで酩酊している女性やら「絶対悪いことしてるよね」というグループやらが目について、私は一層目力を利かせ「敵」はいないかと探さんばかりにグランビルストリートを闊歩するのでした。

たった数分の幸せな時間

そんなダウンタウンの帰り道、いつもより「武装」していたにもかかわらず、いつもより数多くの交流の場面に出会いました。スカイトレイン車内で居合わせた2人に「Twins?」と訊かれたのを皮切りに、バスに乗り換える駅では階段ですれ違っただけの3人全員に話しかけられる事態に(もしかすると娘たちの格好が普通じゃなかった?)。家へ向かうバスは大混雑かつ運転荒めでしたが、それゆえ乗客に連帯感が生まれたのでしょうか、窓際に座っていたファーストネーションズのおじいさんが通路側の人と席を交換してまで席を譲ろうとしてくれたり、韓国系らしきお姉さんはよろけそうになった娘を「Are you OK?」と労わってくれたり、中国系のおばちゃんにも「Twins?」と微笑まれ……。かちこちだった私の心はバスを降りる頃にはすっかり柔らかくあたたかいものになっていました。「本当にみんなやさしいねぇ」と3人でしみじみ言い合ったものです。
ちなみに、娘の分析によると「日本人は知っている人にやさしい、カナダ人は知らない人にやさしい」のだとか。英語では「Hello!」と声を掛け合い「How are you?」と続けることもごく自然なので、初対面の人とさらっと会話する術があるのでしょう。「How are you?」の万能さは日常的に実感していますが、言葉の問題以前に人びとに大らかさがあるのを感じます。特に子どもに対して。
日本でも双子ということで話しかけられる機会はありましたが、バンクーバーはその垣根がまた一段と低くなったようです。そして、そんな環境を娘たちは私以上に楽しんでいます。公園の砂場で遊んでいた子と一言二言しゃべっただけで「お友達できた」と喜び、バス停の待ち時間に会話したスペイン系おばあちゃんと「もっと話したかった」と別れを惜しみ、コミュニティセンターで時々会う中国語オンリーのおばあちゃんの言葉に「外に出ないのって言ってるよ」と見事な翻訳力を発揮。
思い返してみれば、街でいろいろな人と会話するチャンスは全部娘たちに与えられていました。もし私一人だったら? バンクーバーの景色はきっと別世界だったことでしょう。

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2013年7月11日 第28号 掲載

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