親子でエンジョイした日々

「やどかりは成長して殻が小さくなると、殻を脱いでより大きな殻を探します。また成長して殻が小さくなると、さらに大きな殻を求めて出て行きます。プリスクールという殻はもう、あなたたちにとって小さすぎるのです。だから……卒業おめでとう」。
先週行われたプリスクールの卒業式で、先生から送られた餞のお話です。子どもたちは海の生き物のパペットに熱心に見入り、聞き入っていました。その後一人ずつ名前が呼ばれ、卒業証書を手渡されると、先生としっかり握手して記念撮影。目を真っ赤にするママさんもちらほら。
9ヶ月間通ったプリスクールは週3回午前中という短時間カリキュラムではありましたが、その中に大切なエキスをぎゅっと詰め込んだような、かけがえのない時間を過ごせました。「過ごせたようです」という間接表現でないのは、親である私がこの目でしかと見る機会が多かったから。毎月のようにクラスに参加するdutyに加え、ふれあい動物園、野鳥保護センター、砂浜遊びなどの遠足や、スタンプラリー、バザーなどのファンドレイジングといった豊富な親子体験がありました。
のびのび遊ぶことを主眼としたプレイベイストのプリスクールですが、毎回印象に残るテーマが準備されていました。ラスト3ヶ月だけでもプリスクールにポニーが来たり、お巡りさんが来たり、蛇遣いが来たり、口で筆をくわえて描く半身不随の絵描きさんが来たり、青虫から育てた蝶を空に放したり、各自宝物を持参して当てっこ&スピーチをしたり、母の日・父の日のプレゼントを作ったり、パン・お菓子・ジュース作りをしたり……そこは心躍る体験のできる子どもたちの舞台でした。「今日ね、○○したんだよ〜」と娘たちは息を切らし我先に報告するのがお決まりで、そのたびに私は「へぇ〜」と心から感心するのでした。

幼児期に大切なことって

5歳の娘たちは夫の赴任先の韓国、帰国後の日本、そしてカナダと3つの幼稚園を経験しています。おもしろいことに2歳、3歳、4歳と年齢が増すたびに、幼稚園で過ごす時間が短くなっていきました。韓国で過ごした2歳時は9時〜14時の通常保育に加え1時間の選択保育があり、そこでバレエ、アート、テコンドーなどを教わりました。通常保育には英語や科学や体育の時間もあり、お勉強熱心そのもの。日本ではお勉強幼稚園ではなかったものの年少でも長めのセリフを諳んじるお遊戯会あり、年長ともなれば中距離マラソンや俳句を詠んで習字(漢字込み)を書く機会もあります。
韓国でも日本でも「大人に近づくこと」「より成熟すること」「できることを増やすこと」を目標に日々過ごしている感があり、すると親の側にそこはかとない競争意識が発生します。何と競争しているのやら、足をバタバタさせつつ焦りを感じてくるのです。プリスクールで過ごした数ヶ月間で、その価値観が徐々にシフトしていくのを自覚しました。たった一度の幼児期を立ち止まってゆっくり楽しもうよ、という方向へ。子どものありのままを見守り育てようというママさんたちの大らかな態度に接したからでしょう。
プリスクール通いによって、娘たちの目覚ましい成長を感じるよりむしろ、年下のお友達に交じってキャーキャー遊び、より子どもっぽくなった印象ですが、親子共にいい仲間と出会えたのは一番の喜びです。あたたかい眼差しで見守る関係は、緊張感を溶きほぐし、陽だまりに身をゆだねる心地よさがありました。夏休みも週一度、クラスメイトが公園に集って遊ぶ計画があるため、卒業したとはいえ、まだプリスクールが続いている感覚ですが、これからもずっとよい友達でいられたらと願っています。

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2013年7月4日 第27号 掲載

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