2019年11月28日 第48号

今年創設60周年を迎えたバンクーバー日系ガーデナーズ協会(VJGA)。日系コミュニティだけではなくメトロバンクーバーで広く造園業にたずさわり、その功績は、現在でも市民に愛され親しまれている公園の数々で知られている。

VJGA は11月10日、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市にある日系文化センター・博物館で60周年を記念した講演会を開催した。講演者は、生物学者で環境活動家のデイビッド・スズキ氏、ノースバンクーバーで持続可能な造園を提唱するヘザー・シャムホーン氏、バンクーバー市公園庁からデーブ・デマーズ氏。造園、都市計画、環境と、これからの環境問題で切り離せない各分野からの幅広い講演会となった。 この日は、在バンクーバー日本国総領事館羽鳥隆総領事やGVJCCAジュディ・ハナザワ会長もお祝いに駆け付けた。

 

VJGA記念講演会での記念撮影

 

「これからのVJGAも楽しみです」VJGA会長岡田伸平氏

 バンクーバー日系ガーデナーズ協会設立は1959年。現在ブリティッシュ・コロンビア大学構内にある新渡戸ガーデンの造園をきっかけに発足した。岡田氏によると、当時戦前からの庭師や強制移動からバンクーバーに戻ってきたガーデナーなどが集まり新渡戸ガーデンの造園にたずさわったという。その時に発足したのが前身の日本庭園研究会。それから今年で60年となる。日系団体では長い歴史を持つ団体の一つだ。

 これまでにバンクーバー市役所の日本庭園、日系文化センター前の庭園、ヘイスティングスパークにあるモミジガーデンなどを造園し、日本庭園の普及と地域社会への貢献を目的として活動してきた。

 しかし現在ではその役割は、バンクーバーを取り巻く環境の変化とともに変わりつつあるという。「地域への貢献という点ではこれからも変わりませんが、現在ではガーデナーズ協会会員のビジネスの繁栄やそのための勉強会など、地域と会員に根付いた役割が大きくなっています」と話す。

 日本庭園の知識と専門知識を向上させる講習会を開いたり、会員同士の交流を深めたり、仕事を紹介したりと、一緒に大きなプロジェクトに関わるということから個々の会員の活動を支援する役割が大きくなっているという。

 現在会員数は約55人。6割は60歳以上で若者の引き入れがこれからの課題だ。ただ「ビジネスチャンスはあると思います」と岡田氏。造園業というのは実は経済事情にあまり影響されないのだという。「自然は経済に関係なく、草木は伸びていきます。誰かが整備をしなくてはいけないので、そういう意味では割と安定した職業なんです」と言う。

 さらにカナダで日本文化に興味を持つ人が増え、自宅に日本風の庭園を造りたいという人も増えてきていると感じているとも。「日本庭園」の定義はカナダでは広義に渡る。どんな庭でも日本の文化である庭造りをバンクーバーで広めていくことには変わりない。

 「今日のような機会を生かし、もっとこの仕事を広く発信していきたいと思っています」。そして、ここまでの60年の歩みの先にある、これからの60年も「どうなるのか楽しみです」と笑った。

 羽鳥総領事は「60周年おめでとうございます」とあいさつした。日系の団体で設立60年という長い歴史を持つ団体は少ないと思うと語る。「そういうおめでたい年にバンクーバーで一緒に祝えることが、自分としてはとてもうれしいです」と笑顔を見せる。

 約2カ月前に新渡戸ガーデンを訪れたばかりだという。「すごく立派なお庭で」と感心した。そして実は現在、総領事公邸での日本庭園造りに協力してもらっていることを明かした。

 日本人には庭に対する独特の思い入れがある。「庭を造ったり、整備をしたりすることで、その日本の心も一緒に理解していただくことに役に立っているのではと思います」と、庭造りでの日加の架け橋への貢献を称えた。

 

デイビッド・スズキ氏講演 「環境より経済を優先させる概念が地球破滅を引き起こす」

 「60周年おめでとうございます」と開口一番あいさつした。「私はガーデニングというのは人間活動の中でとても重要な位置を占めていると感じています。なぜならガーデニングというのは私たちに文明をもたらしたルーツへと引き戻させてくれるからです」と語った。日本には森林浴という活動がある。それは森林が我々に心身的な恩恵を与えてくれることを理解しているすばらしい行為だと紹介した。

 スズキ氏は、今地球は危機に直面していると警鐘を鳴らす。地球上で人間が絶大な影響力を持ち、全てをコントロールできるかのように振る舞っている。しかし人間は、そもそも動物としては大した能力は持っていない。体が大きいわけでもなく、力が強いわけでもなく、足が速いわけでもなかったと説明した。。

 しかし人間には発達した脳があった。その働きにより鋭い観察力を備え、行動と失敗から学ぶという力を備えた。そして「未来」という現実の世界には存在しない概念を作り出した。「現在」しか存在しない世界で「未来」という概念をつくることで、現在の自分たちの行動が「未来」に影響を与えるという認識を持てるようになった。

 この先見力は危険を避け好機をつかむことに役立っている。現在、科学者たちは、その優れた先見力とスーパーコンピュータを駆使して50年先を予測、そして我々が非常に危険な道を現在歩んでいると警鐘を鳴らしている。科学者たちによれば、その危機は今ならまだ避けることができるという。

 1992年7月、ノーベル賞受賞者を多く含む約1500人の科学者が人類に警鐘を鳴らす報告書『World Scientists Warning to Humanity』を発表した。緊急に自分たちの行動を正さなければ、将来取り返しのつかない危機的状況が人類と地球に訪れると警告した。しかし人類の知の結晶ともいえるこの報告書はほとんど無視されたまま25年が経ち、2017年に再び発表された。

 2018年には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が気温上昇を産業革命前の1.5〜2度以内に抑える努力が必要、それ以上気温が上昇した世界では人間は適応できないと報告した。

 しかし現在すでに1.1度上昇しているという。このままでは世界は破滅的な結果を招くだろうと警鐘を鳴らしている。それでも今なら方法はあるという。それは、2030年までに45パーセント、2050年までに100パーセントの温室効果ガス排出量に減らすことだ。

 2019年5月、国際連合環境計画(UNEP)がIPBESの動植物に関する報告書を発表、このままでは100万種の動植物が絶滅の危機に瀕すると報告した。

 しかしスズキ氏はこうした地球環境に大事な報告書が「まともに報道されていない」と憤る。

 「なぜ人々は科学者の言葉に耳を貸そうとしないのか」。

 原因の一つは人間中心主義による経済活動優先主義だ。我々は経済は成長し続けなければならないものという神話をつくり出したと語る。しかしスズキ氏は、成長し続ける経済活動の世界はやがて必ず崩壊すると言う。なぜなら、「人間の生み出す経済活動というものは、元々自然の恩恵にあずかっているもの」だからだ。にもかかわらず経済活動の根幹には自然の恵みに対する価値や、自然は神聖なものという概念が含まれていない。

 持続的に増え続ける現象を指数関数増殖というと説明した。累乗的に増加するという意味だ。限られた資源の中で環境破壊による影響を無視して、持続的な経済活動最優先の下、人口は指数関数的に増加。それはやがて飽和状態を迎える。その時では遅い。

 これまでずっと地球環境主義を実践してきた先住民族の人がいつも口にする言葉があるという。「私たちはみんな同じカヌーに乗っている。みんなで協力してパドルを操らなければカヌーは前に進まない」。

 今我々に必要なのは科学者たちの警鐘に耳を貸し、地球環境主義へと転換するための早急な対策を講じること。人間中心主義のままではやがて地球は破たんすると語った。

(取材 三島直美)

 

これからも地域貢献と日本庭園促進を目指すVJGAの岡田会長

 

公邸の庭の手入れでも「VJGAにお世話になっている」と語る羽鳥総領事

 

科学者たちが示した危機的状況を回避する時は今しかないと語るスズキ氏

 

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