2019年11月21日 第47号

日系コミュニティの歴史に新たな一ページが記された。戦前から日本語学校として、日系コミュニティの中心として存在し、アレキサンダー日本語学校の愛称で親しまれているバンクーバー日本語学校並びに日系人会館(VJLS-JH)が11月13日、カナダ国定史跡に認定された。

同日に同校で行われた記念式典には、戦前にこの学校に通っていた卒業生や現在通っている子どもたちが出席。世代を超えた学び舎の歴史的瞬間に華を添えた。

 

記念プレートのレプリカを囲んで出席者で記念撮影

 

◆うれしくて「涙が出そうだった」

 戦前この学校に通っていた日系の子どもたちは、昼間は近くにあるストラスコナ小学校に通い、それが終わると教科書を日本語に持ち換えて日本語学校に通った。それが当時の日系の子どもたちの日課だった。

 この日参加した堀井昭さんは日本語を話す日系人医師として戦後多くの一世たちを診察した。堀井さんはいつも言う、「私の日本語はアレキサンダーに通っていた5年生までの日本語なんですよ」。それでも英語が苦手な一世たちは堀井医師を頼った。母国語で診察してくれる医師は一世たちにとって頼もしかったに違いない。言葉とはそれほどの力がある。だから戦前の日系人たちは子どもたちに日本語を習わせた。学校が終わって遊びたい子どもたちを日本語学校に通わせた。

 マリー・カワモトさんはしょうががたくさん入った袋を持って通っていたことを楽しそうに話した。「それが当時おやつだったのよ」と笑う。当時は家でも日本語を話していた。それも独特に日英混じった日本語だという。「ミーはとか、ユーはとかね」。懐かしそうに話す。でも今はほとんど日本語を話さない。戦後日系コミュニティはバラバラになった。カナダで生活していく中で英語が中心となり日本語は必要なくなった。

 強制収容が終了したあと、多くの二世たちがたどった道だった。それでも日本語学校は再び日系コミュニティの手に戻り、学校としての役割を復活させた。三世、四世たちがここで日本語を学び、日系文化を継承している。

 現在理事長を務めるデブラ・サイモトさんもその一人。用意した日本語原稿をあいさつで読み上げたあと「冷や汗が出た」と笑ったが、こうした人々の努力でアレキサンダー日本語学校は再び活気を取り戻し、この日カナダ国定史跡登録を実現した。

 カワモトさんは「涙が出そうになった」と喜んだ。堀井さんは「もうこの辺りが昔のような日本人街になることはないと思うけど、日本語学校が国定史跡に登録され受け継がれていくのはうれしい」と笑った。

 カワモトさんも、堀井さんも、強制収容を経験して克服したシニアたち。同じように強制収容時代を乗り越えて復活をとげた日本語学校の国定史跡登録を喜んでいた。

 

◆「レジリエンス(復活力)」の勝利

 「レジリエンス」。今回の国定史跡登録の実現について出席者のほとんどが日系コミュニティの力をそう表現した。

 この日は連邦からこの選挙区のジェニー・クワン議員、ブリティッシュ・コロンビア州政府メラニー・マーク議員、バンクーバー市リサ・ドミナト市議、カナダ史跡委員会ティモシー・クリスチャン氏、在バンクーバー日本国領事館羽鳥隆総領事が出席した。

 祝辞を述べる誰もが強制収容からここまでの歴史を振り返り、「日系コミュニティの復活したいという強い意志が今日のこの日を迎えた」と称賛した。

 レジリエンスとは「復活力」とか「回復力」に訳されるが、「困難な状況に遭遇した時でも、そこから復活していい方向に持っていける力」のことをいう。

 クワン議員は、日系の人々の強い気持ちがここに日本語学校を復活させ、国定史跡登録を実現させたと述べた。日本語学校が今多くの人々を受け入れていることに胸が熱くなる思いで、日系コミュニティの人間としてのすばらしさと復活力の強さにカナダ多文化コミュニティの姿を見たと祝辞を述べた。

 羽鳥総領事は、国定史跡に指定されたことで日系の歴史の貴重な存在としてこれから継承されていくためにとてもよかったと思いますと祝福した。「日本政府としてもカナダとの友好関係をこれからも増進していく上で、日本語と日本文化を普及する役割を担う日本語学校と協力していければいいと思っています」と語った。

 

◆日系コミュニティの憩いの場として、日本文化継承の発信地として

 今ではここで日本語を学ぶのは日系人だけではない。日本に、日本語に、日本文化に興味がある、国籍、人種を越えた人々がここで日本語を学び、日本文化を体験する。

 季節ごとに日本の行事を開催し、カナダの文化行事も取り入れて、日加の架け橋の役目も担っている。

 子ども2人がここに通う天谷華子さんは、歴史があるこの学校で「言語以外にも文化を学んでもらえるかな」とこの学校を選んだと語った。長男ハルバーソン・海渡くん(9)は「だるまさんが転んだが好き」と照れながら話す。友達もたくさんいて学校は楽しいと笑った。海凪さん(7)も一緒に通っている。天谷さんは「カナダで生まれて、カナダで育った日系カナダ人にとって、日本の文化に触れる機会が増えるといいと思います」と語った。

 インド系カナダ人のバヴィヤ・アガルウァルさんはデイケアにアヤンくんが通っている。学校を「とても気に入っている」と語る。日本的な習慣を学べるし、文化にも触れられる。アヤンくんも気に入って最近は帰りたがらないと笑う。「家でも日本の歌を歌っていて、私も最近は覚えてしまったんです」と笑った。

 

◆日本人街復興とこれからの日本語学校の役割を見つめて

 日系コミュニティとしては日本語学校の周辺の状況も気になるところだ。戦前は日系野球チームのバンクーバー朝日が活躍したパウエルグランド、現在のオッペンハイマー公園は今多くのホームレスが生活する場となっている。

 今年8月に開催されたパウエルストリート・フェスティバルは例年とは場所を変更してオッペンハイマー公園を使用せずに開催した。生活の場から強制的に移動させられる辛さを最も分かっているのが日系コミュニティだからだ。

 その決定に市も感謝した。ドミナト市議は現在の状況が続くことをいいとは思わないと語ったが、すぐに解決できる問題でもないと言う。複雑な事情が絡んだ問題なので少しずつでも解決できるよう市としても努力していると語った。クワン議員も同様の思いを語った。

 理事で今回司会を務めたローラ・サイモトさんは、日本語学校周辺の問題を他人事にしてはいけないと言う。「学校の外のことだから関係ないというわけにはいかない。これは私たちのコミュニティの問題であり、協力して解決に向かう必要がある」と語る。

 そのためにも今回の国定史跡登録はよい機会と話す。プレートが設置され、日系の歴史が紹介され、人々が関心を持って集まってくる。そうして「ここを核にして周辺全体を変えていくことができる」と未来像を語る。

 その未来像に近づくための第1歩はすでに踏み出されている。来年には日本語学校の改修工事が始まる。サイモトさんによるとカギは三本柱。日本語学校、デイケア、そして日系の歴史伝承。改修はそのためのもので、ミュージアム的なものを作るという。

 先人が守ってきた日系の誇りと、決して繰り返してはいけない日系の、カナダの歴史を、ここから未来へと引き継いでいくために「まだまだすることはたくさんある」と笑う。

 国定史跡登録は通過点でしかない。語り継ぐのは建物ではなく、それに関わってきた人々だ。「私たちだけでできることではない。政府やいろいろな団体と協力して盛り上げていきたい」と語った。

 

◆バンクーバー日本語学校並びに日系人会館(VJSL-JH)

 1906年開校。1928年現在の場所に新校舎が完成する。バラードブリッジなどを手掛けた建築会社によるアールデコ調の斬新な建築が目を引く。1941年12月7日太平洋戦争勃発で閉鎖を余儀なくされる。閉鎖時の生徒数1010人。1942年カナダ政府による日系人強制移動開始・財産没収。校舎を国防省に賃与する。1945年終戦も日系人の強制移動政策は継続される。1947年カナダ政府により校舎の半分を売却される。

 1949年強制移動政策終了、日系人に移動の自由が認められる。1952年日系コミュニティの努力により校舎が戻る。1953年授業再開。2000年新校舎および日系人ホール落成式、こどものくに開園、現在に至る。

(取材 三島直美)

 

日本文化の継承という共通の目的でこれからも協力していきたいと話す羽鳥総領事 Photo courtesy of Manto Artworks

 

戦前日本語学校に通っていた卒業生の堀井さん(左)とカワモトさん Photo courtesy of Manto Artworks

 

出席した政府関係者、左からクワン議員、マーク議員、ドミナト市議、クリスチャン氏 Photo courtesy of Manto Artworks

 

この日司会を担当した同校理事ローラ・サイモトさん Photo courtesy of Manto Artworks

 

同校を代表してあいさつするデブラ・サイモト理事長 Photo courtesy of Manto Artworks

 

 

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