2019年7月4日 第27号

6月11日、やましたひでこさんと佐藤青児さんによる「間」をテーマにした講習会がバンクーバー・ダウンタウン(リステルバンクーバーホテル)で行われた。二人が共鳴したポイント、伝えたかった「間」の術とは何だったのか。

 

参加者とともに耳たぶ回しポーズで

 

  入ってくるいらないものを「断」ち、不要なものを「捨」て、モノへの執着から「離」れる。日本で大ブームを巻き起こした『断捨離』は単なる片付けの技術ではない。片付けを通して自分を知り、モノ・コト・ヒトとの関係を見直す「人生の片づけ」であり、生き方そのもの。こうした身の回りの空間に着目するやましたさんに対し、佐藤さんのフォーカスは体の中の空間。歯科医師として顎関節症の治癒の研究過程で、「揉まない・押さない・引っ張らない」独自の治療法を開発した。現在「さとう式リンパケア」を学び指導するインストラクターは2000人以上。関連書籍の販売実績も20万部を超え、日本のテレビ・雑誌にも度々取り上げられている。

 バンクーバーでの共演講習会を前に、本紙が二人にインタビューを行った。

 

やました流&佐藤流の人生の歩み方

断捨離を通じて伝えたいことは?

やました:自分の命をご機嫌にするのは自分の責任ですね。それに基づいて「自分の命の乗り物でもある空間の力をもっともっと意識して活用していくと、本当に人生はダイナミックに展開しますよ」と申し上げたい。ただ物を片付けるだけじゃなくて、空間をクリエイトしていく。空間をアートにしていく。すると、その方自身がクリエイターになり、人生に訪れることもアートの材料やプロセスになっていきます。

今後ここまではやっていきたいといった目標はありますか?

やました:いやいや、目標は一切ない。というのは、なぜ断捨離で私の人生が展開したかというと、出会う人が扉を開けてくれたから。そして扉の向こうに一歩踏み出したら、次の出会いがあり、また次の扉が開いていくという展開型なんです。ご縁がつながって扉が開いたところに踏み出しているうち、今こうしてバンクーバーにいます。

未来からやってくるものを信頼している、人生を信頼しているということですね。

やました:そうです、そうです。それだけだと思うんです。自分の人生を信頼しているかどうか。何があっても信頼できるか。自分の住空間が自分の居場所だと思えている肯定感が、信頼作りの原動力になるんだと思います。

やましたさんの活動の目的は「片付けできない病」の治療を超えて人生を創造するということですね。

やました:そう、そう、クリエイトとアートですね。でもおっしゃる通りで住まいは病んでいます。「片付かない」というレベルじゃない。生活習慣病の現れですよね。生活過剰病、生活無意識病、コミュニケーションエラー病…。自分自身がそうした住まいにしてしまい、その住まいの影響を受けている。生活空間が重度の自律神経失調症です。自律神経って、入る出るのバランスでできているでしょう? 入ってくるばっかりでまったく出ていかないわけだから…。元気な散らかりもあるんですけど、その散らかりを超えて蓄積疲労になっています。

 アートと言いながらも私は空間の治療師、土建屋ですよ。メスで余計なモノを取り除こうとしても、メスが折れちゃうほど深刻な状況があります。

断捨離を始めるのに一番取っ掛かりがいいのは財布の中の断捨離だと紹介していますね。

やました:はい、一番小さな空間からがいいです。何もかも空間なんですよ。そこから空間の数を増やしていくことです。

ところで、やましたさんががんばった後のご褒美や癒しになることはどんなことですか? 

やました:空間の美しさです。「すっきり片付いている」を超えて「美しい空間」が自分の一番の癒し、もてなしになりますね。そこで眠れば、いい眠りが来るに決まっているわけですから。

佐藤さんに伺います。佐藤さんは人々の健康増進以上の大きな目的を持って活動しているように感じます。

佐藤:最近は逆に目的を持たないというか。「ただただそこに捉えていく」というか…。般若心経から「空」の概念を少し学んで、何もない…「何もない」ではなくて「空」なんですけれども…ないんじゃなくて、そこに「ある」ことを感じながらも視覚聴覚で確認せずに、ただそれを感じるっていうふうに「空」の世界に向かいつつあります。これをね、最近出会う若い社長さんたちが言っているんですよ。自分たちが勝つとか負けるとかいう世界じゃなくって、(アニメの)『ポケモン』や『ワンピース』的に、ただつながって、あるがまま呼吸するように成長していくという感じのことを。

常に雑念のない感覚なのでしょうか。

佐藤:いや、いろいろ悩み苦しみ、ありますよ。その中でただ自分が呼吸して自然と調和していくのが、まあ目的というか、お稽古というか…。

ちなみに般若心経をどのように捉えているのですか?

佐藤:宇宙の仕組みですよね。あれは物理学のお話かなと。

やました:佐藤先生はすべて物理で捉えていらっしゃる。私は哲学的に捉える。それが融合するところが面白いんです。

やましたさん、もう少し佐藤先生のことを教えてもらえますか?

やました:佐藤先生は「宇宙語」で語っていて、周りが見えない感覚が何とも言えない。気遣いがないところが新鮮で素敵です。それを私が「断捨離語」で通訳するんです。先生といると好奇心を刺激されます。

       ***

——その後、うかがったことを要約すると、二人はお茶会の席で出会い、「日本の神話の元のようなもの」(佐藤さん)と語る「カタカムナ」の話で意気投合。その「カタカムナ」の中に「間の統べし(空間のコントロール)」という表現があり、その概念がお互いの仕事の最重要事項だったことが、今回のコラボにつながった。佐藤さんが最近関心を向けているのは般若心経と栄養学、筋肉の動きで、「つながり」が鍵となっている古武術の甲野善紀さんとのコラボもしていると語ってくれた。

 

「間術」の講習会

『間』に痛みを取る鍵がある

 佐藤さんは肩こり、腰痛などがある参加者を会場前に呼び、「耳たぶ回し」など、不調を解消する「さとう式リンパケア」の技術を次々に披露。術前術後の変化に驚く参加者たちに「筋肉を拡張させてあげれば、すべてが流れ、痛みが出なくなる」と佐藤さんは語った。「さとう式」の技術は、筋肉自体と身体の「口腔、胸腔、腹腔」という空間 =“間”を広げることに働いているそうだ。その原理を「身体が軸ならば上から圧力をかけると折れるが、風船のようだと圧力は全方向にかかる」と説明。そこから話は「“触れる”は“振れる”」「腔、空、宮…、外宮と内宮も振動している」「意識を向けない限り物質は存在しない」「小さな世界も大きな世界もすべて自己相似、フラクタル」…と「宇宙語」のトークに。

『間』のコントロールが人生を変える

 宇宙へ広がった佐藤さんの話を受けて「断捨離語」のやましたさんが登壇し、佐藤さんの話した概念を身の周りの事象に落とし込んでいった。

 また、やましたさんは断捨離の持論を「モノをすべて人間だと思ってください」「別れた彼氏がクローゼットで死んでいませんか?」と時に強烈な言葉で展開。ついつい私たちは、自分との関係を考えずモノを主体として捉え「『いつか』『どこかで』『誰かが』使えるかもしれない」と無限な発想でモノを取って置きがち。しかし私たちは有限な時間を生きている。ならば「今」「私にとって」「必要か」と考えてはどうか。自分主体でモノとの関係性を見直そう。そして不要なモノがなくなり、空間ができれば自然と人生にいい流れが起きてくると説いた。

 「今、私たちがこうして出会っているのは、空間と時間と人間という三つの『間』が一致しているから。唯一自分でコントロールできるのが身の回りの空間。この世界は相似象なので、空間を整えて『自在』にしていくことで、時間も人間も整っていき、出会いが生まれ、人生が開花していきます」。

 佐藤さん、やましたさん自身の姿が空間と出会いの論を力強く証明していた。

 

やましたひでこさんの情報 https://yamashitahideko.com

佐藤青児さんの情報 https://www.ghlacanada.com

(取材 平野香利)

 

「筋肉に強い力を加えると縮まる。やさしくなでると筋肉が緩まる」と解説する佐藤青児さん

 

「世界の多くの人たちがモノがなくて苦しんでいます。モノがあって苦しむ私たちはどうなのか」という思いがあるやましたさん

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。