2012年会議のテーマ
GLOBE会議は毎回テーマが決められている。第12回の今年は上記メインテーマの下に、「企業の役割」、「変化するエネルギーの経済力」、「責任ある金融と投資」、「持続可能な街づくり」という4つのサブテーマを掲げ、多くのセミナーが組まれていた。さらに特別テーマとして、「水:需要と供給のつながり」、「地球規模の排出量管理」、「持続可能な消費と小売」を設定し、エネルギーの循環を考えたテーマが掲げられた。
テーマに沿ったセミナーや技術が紹介されるため、毎回内容が変わる。今年は、天然資源関係と金融関係のセミナーが多く、15日には連邦政府ピーター・ケント環境大臣も駆けつけ、カナダの政策を述べた。
その他に目を引いたのがリサイクル技術。従来の紙や瓶・缶といった人工資源のリサイクルに加え、汚水から浄水、ごみから燃料、CO2からメタンガスといった、使用したエネルギーから排出された物質を再生してエネルギーとして再利用するリサイクル技術も多く見られた。


環境テクノロジーの企業と個人の関わり
会議中に開かれた約30セミナーから興味深いものを二つ紹介する。
一つは、「ソーシャルメディアと企業の責任」。ソーシャルメディアがグリーンテクノロジーに果たす役割について語られたこのセミナーで、「ソーシャルメディアは人々をよりグリーンな方向に動かすためのツールとしてその力を発揮する」との意見で一致した。その方法として企業が積極的に自社のグリーンな取り組みを発信していく。マイクロソフト社ジョシュ・ヘンレティグ氏は@microsoft_greenのアカウント名で同社の取り組みを日々発信していると語った。
セミナーの中では、人々はソーシャルメディアから発信された情報に素早く反応すると分析。良くも悪くも使われるソーシャルメディアだが、人々を啓蒙するツールとして企業の武器にもなる。企業として個人に発信していくことに意味があると直接個人に訴えることができるソーシャルメディアの可能性を指摘した。
もう一つは「持続可能な消費者主義:今日の消費者のエコ商品やサービスに対する需要を支えているものは何か」、それに企業はどう応えていくのかということに焦点が当てられた。スターバックスコーヒー社のベン・パッカード氏は、リサイクルへの協力、フェアトレードコーヒー豆の使用など、自社商品に対する努力を消費者に理解してもらうには、それが必要であるということをスターバックスで働く従業員が説明するなどの努力が必要と説明。偽善的と捉えられる面もあるが、それでもできることをやるしかないと語った。
ポイントを集めるカード会社エアマイルズ社のアンドリアス・ソヴァリオティス氏は、これまではエコ商品などを選択することでポイントを増やし、よりグリーンな商品を選ぶよう貢献してきたが、それはあくまでも消費することに対する特典と語り、これからは消費しないことにポイントを付けるという生産企業にとってはジレンマに陥ることにも挑戦していかなくてはならないだろうと語った。


エネルギーのリサイクル
今回の会議では、新たなエネルギーを消費するのではなく、消費したエネルギーから排出されたゴミや汚水、二酸化炭素を新たにエネルギーに変えて再利用するという技術も多く紹介された。
ケベック州モントリオールに本社のあるエナーケム社は、リサイクルできない生ごみやプラスチック製のゴミを特殊処理して、そこからバイオ燃料と再生可能な化学物質を作りだす技術を紹介。バイオ燃料はすでにブラジルでは50パーセント、アメリカでも10パーセントが自動車などの燃料として利用されている。これまではトウモロコシなどの植物から作られ、そのため穀物の世界的な価格が上昇し途上国に大きな影響を与えるという否定的なとらわれ方もしていたが、この技術ではそうした副作用がないうえ、CO2や新たなゴミなどがでないとして、クリーンエネルギーとして活躍する可能性は大きいと、セミナーに参加した同社ラブリエ代表は語った。
日本から参加した日立造船と共同で事業展開しているアタカ大機は、天然ガスの採掘時に発生するCO2を、風力などの再生可能エネルギーを使ってメタンに転換するCO2のリサイクル・再燃料化の技術を展示会場で紹介。将来的には世界のCO2を再生エネルギーとして循環し、新たなCO2をこれ以上排出しないという地球規模の壮大な構想を語った。また、エム・エヌ・ケー株式会社はゴーダ水処理技研の果物や野菜の生ごみを家畜の飼料として再利用できる技術を紹介した。これによりゴミのリサイクルだけでなく、家畜にも良い影響が出ると説明した。


日本からも5社が参加
前回に引き続き、今回も展示会場には日本ブースが設置された。日本から参加したのは、BLダイナミクス、日立造船、ホクエイ、エム・エヌ・ケー、明電舎の5社とジェトロ。15日にはジェトロ主催による日本企業のみの参加によるセミナーが開催され、ホクエイ以外の4社が参加。会場は日本の技術に関心のある人々で満席となった。今回は主に水処理に関する技術を紹介している企業が多かった。
昨年の福島原発事故の発生は国のエネルギー政策の方向を再生エネルギーへと転換するきっかけになったとセミナー冒頭でジェトロ理事の礒部博昭氏が語った通り、日本はこれからますます再生エネルギーへの期待と注目が大きくなっていくことを感じさせる技術や関係者の話が印象に残った。


GLOBEについて
この会議を主催するGLOBEファンデーションは1993年に非営利団体としてバンクーバーに設立され、会議主催の他に企業への提案などを中心に活動している。
「グリーンテクノロジーとビジネスの融合」という今では当たり前のコンセプトを、1990年代はじめ、まだ環境問題がビジネスにとって弊害とされる時期から提唱してきた団体。
同団体の基本3原則は設立当初から変わっていない。①環境問題はビジネスチャンス、②グリーンテクノロジーで問題解決を提供できる企業が成功する、③環境的持続性を促進できる企業が競争力を増していく。
設立から20年経ち世界がようやくこの理念に追いついてきた。環境とビジネスという広義なテーマをさまざまな角度から一堂に集めて開催するこういう会議は世界でも珍しいと日本から参加した企業のひとりは語った。
こういう会議では企業努力だけに焦点が当てられがちだが「企業も結局は人の集まり」というソーシャルメディアでの参加者の言葉が印象に残った。企業レベルで貢献できること、個人レベルで実行できること。21世紀の持続可能な経済の実現はひとりひとりの環境に対する考え方にかかっている。


(取材 三島直美)

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。