2018年9月6日 第36号

女性ボディービルダーと聞くと、筋肉隆々の肉体を持つ強そうな女性をイメージするかもしれない。しかし現れたのは、黒いワンピースに身を包んだスレンダーな女性だった。

ドナルド涼子さん。フィットネスとヨガのインストラクターであり、妻であり、2児の母であるという多忙な中で、3年前から始めたボディービルを趣味として楽しんでやっているという。

自分を見つめ直し、何をやってもどこか自信がなかった自分と決別する勇気をくれたのがボディービル。だからそんな自分の経験を発信し、同じ悩みを持つ多くの人々を勇気づけたい。

夏も終わりに近づいた8月末。不摂生な20代からボディービルダーへと転身する中で経験した胸に秘めた思いを語る、ドナルド涼子さんに話を聞いた。

 

 

ドナルド涼子さん。バンクーバー新報事務所で。8月31日

 

太っていた子供時代と不摂生な20代

 「日本で育って、小学、中学、高校とずっと太っていました」。家には常にジャンクフードがあり、健康的な食事自体がよくわかっていなかった子供時代の環境を振り返った。子供の頃に太っていると辛いことも多い。だから「幼少から大人にかけて自信がない自分になっていくんです」。

 大学に入学し、ある日仲が良かった友人が過食症だということがわかった。食べても食べても痩せている。自分も友人と同じことをした。食べては吐く。1年くらい続けると、最高で80キログラムあった体重は30キログラムほども減った。

 見る見るうちに落ちていく体重に「調子に乗って続けちゃったんですね」。お酒もたばこも飲む。精神的にも、身体的にも、病んでいる自分に気づかず続けた。

 「そうするとある夜、たまたま頭を触ったら、ボコッて穴が開いていたんですよね。脱毛症。10円玉くらいの。あれって思って。ショックですよね、若い女の子ですし」。まだ大学生だ。「やばいって思って。でもその日は寝たんです。それで次の朝に起きたら、ボコボコボコッて増えてたんです。20カ所くらいに」。今だから笑って話せる経験だ。

 これを機に、過食症のような状態を続けるのを止めた。しかし、それでも健康的な食生活になったとは言い難い生活は続いた。

 

友人の勧めで始めたジム通い

 その後も不健康な食生活と運動不足は続いていた。結婚し、カナダに移住しても続いていた。

 最初に生活を改めるきっかけになったのは、2人目を出産した33歳。そして運動を始めるきっかけになったのが、2人の子供が通う日本語学校で出会ったジムのインストラクターだった友人の勧めだった。

 「大きな転機になりました」。さらに幸運だったのは、そのインストラクターの友人の子供がいたおかげで、「私の娘も喜んでジムのデイケアに行ってくれるようになって」。それからは定期的にジムに通えるようになった。これがすごく大きかったと振り返る。「そこでバンと切り替えができた。運動するのは気持ちがいいことなんだって分かりました」。

 もともと運動するのは嫌いじゃなかった。「思い出したんでしょうね」と笑う。それからは「もう止まらない感じ」。楽しくてインストラクターの資格まで取った。

 インストラクターになって運動は続けても、食生活はなかなか規則正しいものにはならなかった。朝からコーヒーを飲んで、午後にバナナ1本で仕事をこなし、家に帰っては子供の世話と家事。忙しいというのが原因だ。自分のために取れる時間は少なかった。

 そんな多忙な中、今度はうつ病に陥った。

 

転機はひょんなことから始めたボディービル

 うつ病といっても、家から一歩も出ないわけではない。「うつ病って、治ったかと思うとまた悪くなっての繰り返しで。仕事をしているんですけど、帰って来ると何もできない。そういう状態が結構続いたんです」。その頃始めたのがヨガ。それでも、うつ状態は3、4年は続いたという。

 そんな時に出合ったのがボディービルだった。インストラクター仲間からたまたまもらった情報だった。「あ〜、もうやだな、ここから出たいなって思っている時にたまたま、こういうビキニっていうのがあるよって言われて。何も考えずに興味があるなって」。

 ビキニとは、ボディービルのカテゴリーの一つで、女性ボディービルダーとしては最も細いクラス。筋肉と体のバランスの美しさが求められる。

 ボディービルを始めてから気づいたのは食事の大切さ。口から入れた物が筋肉になるのだから当然だ。食事に気を付けるようになった。そうすると、さらに気づいたことがある。「食べ物がきれいになると、心も変わるんです」。

 食事の大切さに改めて気づかされた。ここからはもう止まらなかった。規則正しく健康的な食生活を実践し、ボディービルのための食事も取り入れるようになった。

 ヨガも続け、インストラクターの仕事も続け、趣味としてボディービルをすることで、生活習慣を改め、心身ともに充実する日々がやって来た。

 ボディービルでは大会にも出場している。今年は7月に2大会に出場した。7月6日に行われたカナダ全国大会出場では7位、7月28日のナチュラルボディービル大会は2位を獲得した。

 「結構まじめで、やり出すと、がんばって勉強してコツコツ毎日やるタイプなんです」と笑う。それが実って、インストラクターでも2016年に、フィットネスワールドのベストインストラクター賞を受賞している。

 次の目標は、自分の経験を通して学んだことを多くの人々に伝えていくこと。特に多くの女性に幸せになってもらいたいと願っている。

 

自分を縛るものから解放して自分らしい自分を見つけて幸せに

 自分にとってボディービルは「自分に自信を持つツールでした。でも、それって大事なんです」と涼子さん。

 太った自信のない自分から、ボディービルを始めて心身ともに美しくなることで自信を持ち、それが自分自身を幸せにすると気づいた。ボディービルを始めて「カチッてきたというのはその通りですね。体を動かすこと、精神統一、きれいなものを体に入れる」。三位一体を体感した。「初めから言われていれば、よく理解しないままだったかもしれないですけど、多くの挫折を味わってここまで経験したから、ほんとにしっかり理解ができたと思うんです」。

 だから、「それを皆さんにお話ししてできる限り広めていきたいと思っています」。これまでの人生を、何らかの形で伝える機会を作り、多くの同じような悩みを持つ人々の力になりたいと考えている。

 特に、日本の女性に送りたいメッセージがあるという。帰国すると感じることがある。「周りの人に言われて、自分はこうじゃないといけないという概念で、がんじがらめの状態になっていると思うんです」。

 でもそうじゃなくていいと語る。「自分は年だからとか、私にはできないからとか。でもほんとは自分でそう思い込んでいるだけで、やってみないと分からないですよね」。 まずは第1歩を踏み出すこと。きっかけは何でもいい。自分の場合は、たまたま友人がインストラクターで、そこからボディービルという生涯の楽しみに出合えた。それが自分自身を見つめ直すきっかけになって今がある。

 もし他の人々にとって、そのきっかけが自分の体験だったら「うれしい」と笑う。「だって、もうすぐ50のおばさんがボディービルを楽しそうにやっていたら、あっそっかって思うじゃないですか!」。

 現在は自分の体験を書いた本を執筆中だ。「少しでも多くの人に自分の体験を知ってもらいたいので」と、20年間書いては挫折してきた執筆に、ようやく取り組んだ。日本のテレビ番組への出演依頼も背中を押した。

 取り組んでいるのはそれだけではない。ビーガン(絶対菜食主義)でボディービルにも挑戦中だ。7月後半の大会前から始めたが「結構調子がいいんです」という。その後、帰国する機会があり、日本食の良さも再発見し、日本の食品を取り入れた菜食主義で、自分の体がどう反応するか見てみたいと自分自身への挑戦にもまだまだ意欲的だ。

 現在47歳。ボディービルを始めたのは3年前。それでもボディービルは一生できる趣味だから、決して遅いということはないと笑う。「年を取ると筋肉を鍛えるのがとても大事。それに筋トレだと、走ったり、飛んだりするより、ひざや腰に負担を掛けずに筋力を保つことができるんです」と理にかなっていると説明する。

 そして最後に「40歳を過ぎると、筋トレとヨガはマストですよ」と笑って読者にアドバイスを送った。

 

7月6日に行われたカナダ全国大会で7位になった様子は、読売テレビ「グッと!地球便」で密着取材され、9月23日(日本時間)に放送される予定。

ドナルド涼子さんのInstagramのアカウント名 Befitfirmfab

(取材 三島直美)

 

 

7月28日にサレーで開催されたTzone Fitness Natural Championships での記念写真。この大会のGrandmaster(45歳以上)カテゴリーで2位となった。(写真提供:ドナルド涼子さん)

 

7月28日のナチュラルボディービル大会は2位を獲得(写真提供:ドナルド涼子さん)

 

 

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